SIer PMの「情報の非対称」——なぜ事業会社面接で会話が噛み合わないのか
- SIer出身PMが事業会社面接で噛み合わない原因の多くは、スキル不足ではなく前提とする情報の非対称だと僕は考えています。
- 面接官が知りたいのは「誰の課題を、なぜその優先度で解いたか」で、SIer側の説明はしばしば「何を、どう作ったか」に寄ります。
- 翻訳の第一歩は、自分の実績を発注者の言葉から利用者・事業の言葉へ言い換える作業だと、僕の体感値では上位者ほど自然にできています。
「面接、手応えがないんですよね。落とされる理由もピンとこなくて。話は普通にできてるはずなんですが」——先日、SIer出身でPM歴12年の方からこんな相談をいただきました。技術も語れる、進捗管理の話もできる。なのに事業会社の面接になると、なぜか会話が噛み合わない感覚が残る、と。
この「噛み合わなさ」を、多くの方はスキル不足や経験不足のサインだと受け取ります。でも僕の体感値で言うと、原因の大半はスキルではありません。もっと手前、両者が前提としている「情報」がずれているだけ、というケースが非常に多いのです。今日はこの、僕が社内で「情報の非対称」と呼んでいる現象について書いていきます。
0. 「情報の非対称」とは何か
誤解がないように申し上げると、ここで言う情報の非対称は、経済学の用語をそのまま持ち込んだものではありません。僕が面接の現場を見ていて名付けた、あくまで社内用の言葉です。意味はシンプルで、面接官と候補者が「そもそも何を起点に仕事を語るか」の前提を共有していない状態を指します。
SIerの世界では、仕事の起点はほぼ常に「発注者の要求」です。誰かが要件を持ってきて、それをQCDに落として作り切る。ここでのPMの腕とは、決まった要求を予定通り届ける力です。一方、事業会社のPMは、そもそも「何を作るべきか」を利用者と事業から立ち上げるところが起点になります。起点が違えば、優れた仕事の定義も違う。この前提のズレを埋めないまま話すから、両者とも正しいことを言っているのに噛み合わない、という現象が起きます。
1. 噛み合わないときに実際に起きていること
具体的に見ていきましょう。よくある例として、面接官が「印象に残っているプロジェクトを教えてください」と聞いたとします。SIer出身の方はこう答えがちです。「金融系の大規模な基幹刷新で、20名規模のチームを率いて、当初炎上気味だったのを立て直して納期を守り切りました」。
これ自体は立派な実績で、僕も素直にすごいと思います。ところが事業会社の面接官の頭の中では、聞きたかった問いに答えが返ってきていない、という状態になっている。彼らが知りたかったのは「なぜその刷新をやると決めたのか」「誰のどんな困りごとが解けたのか」なのに、返ってきたのは「どう作り切ったか」だからです。
1-1. 面接官の脳内にある採点表
事業会社のPM面接官が無意識に採点しているのは、ざっくり言えば「この人は利用者と事業を主語にして意思決定できるか」です。作り切る力は前提として一定は見ますが、それはむしろ加点の後半に置かれる。ここを取り違えると、候補者は「一番の得意技」を全力で見せているのに、面接官の採点表の空欄はいつまでも埋まらない、というすれ違いが起きます。
1-2. 候補者側の善意が裏目に出る構造
厄介なのは、これが候補者の善意から生まれることです。SIerでは「与えられた要求に忠実に、確実に届ける」ことが誠実さそのものでした。だから面接でも「私は決められたことをきちんとやり切ります」を全力でアピールする。ところがその誠実さが、事業会社側からは「自分で問いを立てられない人」に見えてしまうことがある。良かれと思って出した札が、相手の土俵では逆の意味を持つ。これが情報の非対称の一番怖いところだと僕は考えています。
2. なぜSIer出身者だけがこの罠にはまりやすいのか
ここで一つ留保しておきたいのは、これはSIer出身者の能力が劣るという話では決してない、ということです。むしろ逆で、要求を確実に形にする訓練を長年積んできたからこそ、その言語が体に染み込んでいる。長く同じ環境にいると、その環境の「当たり前」が空気になって見えなくなります。
身近な比喩で言うと、これは長く海外に住んだ人が、帰国して初めて自分の話す日本語のイントネーションが訛っていることに気づく、あの感覚に近いと思っています。訛っていることが悪いのではなく、自分では気づけない、という点が問題なのです。SIerという環境の「訛り」は、外の面接という場に立って初めて可視化される。だから多くの方が、面接に落ちて初めて「あれ、何かがずれている」と感じる。
この「起点のズレ」を時間軸の観点から掘り下げた話は受託→事業会社の「壁」の正体でも書きました。納品で終わる時間軸と、リリースから始まる時間軸。情報の非対称は、この時間軸の違いが面接の会話に現れたもの、と言い換えることもできます。
3. 非対称を埋める「翻訳」の技術
では、どう埋めるか。まず結論から言うと、必要なのは新しい経験ではなく、今ある実績を相手の言葉に翻訳する作業です。同じ経験を、発注者の言葉から利用者・事業の言葉へ言い換える。ここを僕は「翻訳」と呼んでいます。
3-1. 主語を移す
翻訳の第一歩は主語を移すことです。「顧客の要望で在庫管理画面を改修した」は発注者が主語です。これを「現場担当者が欠品を見逃してしまう課題があり、在庫可視化でそのミスを減らした」と言い換える。主語が発注者から利用者に移り、目的が要望対応から課題解決に変わります。事実は一つも変えていません。光の当て方を変えただけです。
3-2. 成果を事業の指標に接続する
次に、成果を事業の言葉に接続します。「納期を守った」で止めず、その先へ一歩進む。「予定通り稼働させたことで、繁忙期の欠品対応に間に合い、機会損失を抑えられた」。ここまで来て初めて、面接官の採点表の「事業を主語に語れるか」という空欄が埋まり始めます。下の対比を見てください。
| SIerの言葉(発注者起点) | 翻訳後(利用者・事業起点) |
|---|---|
| 顧客要望で機能を追加した | 利用者が離脱していた課題を、この機能で解いた |
| 20名を率いて納期を守った | 限られた期間で最も効く範囲を見極め、優先度を握った |
| 要件定義書通りに実装した | 要件の裏にある本当の目的を確認し、過剰仕様を削った |
右側は特別なプロジェクトの話ではありません。左側とまったく同じ経験を、別の言葉で語り直しているだけです。多くの方は右側の経験を実際に持っているのに、左側の言葉でしか説明していない。だから宝の持ち腐れになっている、というのが僕の見立てです。
3-3. 「上流」で止めずにもう一段遡る
翻訳の精度を上げるコツは、「上流工程をやりました」で止めないことです。要件定義の一つ上、つまり「なぜその課題を解くと決めたのか」まで遡って語れると、情報の非対称は一気に埋まります。この遡り方については「上流経験」の換金法で詳しく整理したので、翻訳の解像度を上げたい方はあわせて読んでみてください。
4. 翻訳が効いた「よくある例→改善後」
実際にあった相談を、業態と属性の抽象レベルでご紹介します。中堅プライムSIer出身、PM歴15年の40代の方でした。最初の模擬的な受け答えは、まさに「大規模プロジェクトを予定通り完遂した」の連発。技術も統率力も申し分ないのに、事業会社系の面接で二次落ちが続いていました。
そこで、過去の一つの案件を主語を移して語り直してもらいました。「基幹刷新を納期通りにやった」ではなく、「現場が二重入力で毎月膨大な工数を無駄にしていた。その工数削減を最優先の狙いに据え、周辺要望はあえて後回しにする合意を取った」。事実は同じです。でもこの言い直しだけで、面接官の反応が明らかに変わった、と後日ご本人から聞きました。「初めて、作った話ではなく決めた話として聞いてもらえた気がした」と。
誤解がないように付け加えると、これは魔法ではありません。翻訳しても中身が空っぽなら見抜かれます。この方の場合、決めた話が実際にあったから翻訳が効いた。つまり翻訳とは、埋もれていた実績を掘り起こす作業であって、ない実績を捏造することでは断じてない、ということです。
5. 翻訳できる経験が本当にない場合
とはいえ、掘り起こしても「決めた経験」が薄い方もいます。ずっと下流で、要求は常に上から降ってきた、という商流にいた場合です。その場合は翻訳だけでは足りず、現在地そのものを一度確認したほうがいい。自分がどの商流・工程にいて、どこなら翻訳が効くのかはSI出身者の職域マップで整理できます。
また、PMという職種は一枚岩ではなく、僕はよく「PMは40パターン存在する」と言っています。同じPMでも、意思決定に踏み込むタイプと、決まった計画を回すタイプでは、翻訳で強調すべき軸がまるで違う。自分がどのパターンに近いかはPM職域マップ40パターンを眺めると輪郭が見えてきます。年齢を重ねた方の翻訳の勘所はPM45+でも触れています。
(結論)
皆さんいかがでしたでしょうか。面接で話が噛み合わないとき、僕らはつい「スキルが足りないのでは」と自分を疑ってしまいます。でも個人的には、その多くは情報の非対称、つまり語りの起点が発注者側に寄っているだけ、というケースが大半だと考えています。
つまり、必要なのは新しい経験を積むことではなく、すでに持っている経験を相手の言葉に翻訳することです。主語を発注者から利用者・事業へ移す。成果をQCDから事業の指標へ接続する。要件定義の一つ上まで遡る。この三つの翻訳ができれば、同じ実績が別の価値として面接官に届きます。水平的に経験を増やすより、今の経験を垂直に語り直す。僕はそちらのほうが、多くの方にとって近道だと考えています。まずは直近の一案件を、右側の言葉で語り直すところから始めてみてください。
よくある質問
Q. 面接で話が噛み合わないのはスキル不足のせいですか
多くの場合はスキルではなく前提の違い、僕が言う「情報の非対称」が原因だと考えています。SIerでは発注者の要求が起点になりますが、事業会社では利用者と事業の課題が起点です。同じPM経験を語っても、面接官が知りたい「誰の何を解いたか」に軸を合わせないと、内容は正しくても評価に届きません。スキルの前に語りの起点を移すことが先だと僕は考えています。
Q. 何を、どう作ったかを語ると評価されないのですか
評価されないわけではありませんが、それだけでは足りないと考えています。事業会社の面接官は「その機能を作ると決めた理由」「なぜその優先度だったか」を知りたがります。作り方の話は前提として置きつつ、意思決定の背景を主語にして語ると噛み合いやすくなります。詳しくは面接対策ロードマップでも触れています。
Q. 発注者の言葉を利用者の言葉に言い換えるとは具体的にどうすることですか
「顧客要望で在庫画面を改修した」を「現場が欠品を見逃す課題を、在庫可視化で減らした」と言い換えるようなことです。主語を発注者から利用者・事業に移し、成果を売上・工数・離脱率など事業の指標に接続します。この翻訳ができると、同じ実績が事業会社の評価軸に乗ります。
PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。
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