SI出身者の職域マップ——商流×工程×常駐で現在地を知る

「求人を眺めても、自分に合うのかどうか、まるで判断がつかないんです」
皆さま、こんな経験ありませんか。転職サイトで「PM経験者歓迎」の求人を何十件も眺めたのに、応募ボタンを一つも押せずにタブを閉じる——。意欲の問題ではありません。原因ははっきりしています。「SIerのPM」という一括りが粗すぎるのです。
僕は、PMは40パターン存在すると申し上げてきました。転職で見るべき項目は60、小項目まで開くと140程度ある、というのが僕らの整理です。SI系だけ切り出しても、現在地はまるで違う。今日は、SI出身の方が自分の現在地を特定するための「地図の読み方」を書きます。地図さえあれば、無数に見えた求人は「近い/遠い」で並び替えられるようになります。
0. なぜ地図が要るのか——「PM歴10年」が何も伝えない理由
そもそも、なぜ「SIerでPM歴10年」という自己紹介では戦えないのか。同じ10年でも、大手元請で3億円・50人月級の案件を計画から握っていた10年と、客先常駐で5名のチームリーダーをしていた10年では、企業から見える価値がまったく違うからです。誤解がないように申し上げると、後者が劣っているという話ではありません。売り先が違うのです。前者はITコンサルや大手IT企画に、後者は現場適応力を買う新興企業に、それぞれ別の値段がつく。
身近な例で言うと、「関東在住です」だけでは家は探せません。沿線と駅と徒歩分数——座標が要る。キャリアの座標がこれから書く3軸です。
1. 現在地を決める3軸:商流×工程×常駐
1-1. 商流:何次請けで仕事をしてきたか
1次請(元請)/1.5次請/2次請以降・SES。上流ほど顧客の生の課題に触れており希少です。ちなみに僕らは、プライム率が5割前後の会社を「1.5次請けSI」と呼んで独立したカテゴリで見ています。元請経験と現場経験が混ざるこの層は、実は転職市場での選択肢が広い。
1-2. 工程:どこからどこまで担ったか
IT戦略・課題設定・システム化企画〜要件定義〜設計〜開発〜運用のどこからどこまで担ったか。ポイントは「一番上流はどこか」と「一気通貫か分業か」の2点です。要件定義より上に一度でも触れていれば、それは必ず掘り起こして言語化すべき資産です(上流経験の換金法参照)。
1-3. 常駐/自社内:どこで仕事をしてきたか
顧客先常駐か自社内開発か。常駐はしばしば「下積み」と語られますが、僕は逆の読み替えを勧めています。顧客の現場に入り込んで課題を拾ってきた経験は、僕が社内で呼んでいる用語で言う「フォワードデプロイドPM(FDPM)」——顧客の懐で課題設定から担うPM——への適性そのものです。AIで職種が溶ける時代、この「現場に入り込む力」は数少ない、溶けにくい能力だと考えています。
2. 現在地別の見取り図
| 現在地 | 持っている資産 | 相性のよい進路の例 |
|---|---|---|
| 大手SIer PM(元請) | 大規模マネジメント・エンタープライズ折衝 | ITコンサル/大手事業会社のIT企画。ただしスタートアップとは文化ギャップが大きい |
| 中堅プライム系SIer PM | 元請経験+現場との近さの両立 | ITコンサル・PMO/バーティカルSaaS。実績があれば年齢を問われにくい領域 |
| 1.5次請〜2次請 PM/PL | 品質・進捗管理の完遂力・現場統率 | 発注側(情シス・IT企画)への転換/新興ITコンサル。求人の裾野が広い |
| SES・常駐リーダー | 複数現場への適応力・顧客先での課題発見 | まず「PM経験の中身」の言語化が先決。常駐経験はFDPM文脈で強みに転じる |
| Web系受託 PM | モダン開発・技術理解 | Web系事業会社・スタートアップとの距離が最も近い |
※進路の相性はPM Quest独自の職域マップ(40パターン)に基づく目安です。個人の経験・年齢・企業により変動します。
この表の読み方で一つ補足すると、「相性のよい進路」は「そこしか行けない」ではなく「書類が通りやすい順」です。遠い座標に挑戦してはいけない理由はどこにもありません。ただ、近い座標で内定の土台を作ってから遠くへ挑む順番のほうが、消耗しません。
3. 現実的な狙い目と、注意すべき問い
個人的には、SI出身の方の現実的な狙い目として①バーティカル(業界特化)SaaS、②新興・中規模のITコンサル、③事業会社の情シス・IT企画(発注側)の3つをまず挙げます。
理由も添えます。①は「顧客の業務が分かって完遂できるPM」というSIerの強みがそのまま採用要件になっている領域。②はレンジが広くポテンシャル採用が活発で、生成AI案件の急増で門戸が開いている領域。③は発注側=あなたが長年向き合ってきた「お客様側の席」であり、ベンダーの手の内を知っていること自体が武器になる領域です。
一方で、どの進路でも面接で必ず問われるのが「そのPM経験は本当のPM経験か」です。厳しい言い方に聞こえたら恐縮ですが、採用企業は「PM経験あり」の申告をそのままは信じていません。確認される定番の3問がこれです。
- 何名×何ヶ月×予算いくらのプロジェクトか
- 要件定義から関与したか、途中参画か
- 最終意思決定者は誰だったか
この3つに具体的な数字と固有の状況で答えられるよう、応募前に自分の経験を棚卸ししておいてください。逆に言えば、ここに即答できるだけで、書類と一次面接の通過感触は目に見えて変わります。
4. 座標の「読み替え」——地図は書き換えられる
ここまでは現在地の話でしたが、最後に一段だけ先の話をします。座標は固定ではありません。読み替えと積み増しで動かせます。
たとえばSES・常駐リーダーの方。「2次請け・下流・常駐」という座標は、額面通りに読むと選択肢が狭く見えます。ですが、常駐先が金融機関一筋10年なら、「金融業務知識×IT×現場適応力」という掛け算に読み替えられる。この瞬間、狙える座標に「金融特化のバーティカルSaaS」「金融機関の内製化支援」が加わります。3つの掛け算で100人に1人の希少価値になる、というのが僕の持論ですが、掛け算の材料は職務経歴書の「常駐先」の欄に眠っていることが多いのです。
あるいは工程の積み増し。いまの案件で、提案フェーズに一度だけでも同席させてもらう。見積もりの前提づくりを買って出る。半年後の職務経歴書に「システム化企画への関与」の一行が書けるかどうかは、転職活動を始める前の動き方で決まります。地図は、応募のための道具である前に、現職での動き方を決める道具なのです。
5. 面談で実際にあった「座標の誤認」
実例をひとつ、ぼかして紹介します。ご自身を「大手SIerのPM」と紹介された40代の方がいました。ところが3軸で棚卸しすると、実態は「大手SIerに出向中の、2次請け企業所属のPL」。ご本人に悪気はなく、常駐先の看板で自己認識ができあがっていたのです。これは珍しい話ではなく、長い常駐の後では、所属と現場の座標が本人の中で混ざるのはむしろ自然です。
重要なのはここからで、座標を正確に引き直した結果、この方の戦略は「大手SIer PMとしてITコンサルを狙う」(書類で苦戦する座標)から、「現場統率と複数現場適応を武器に発注側の情シスを狙う」(資産がそのまま評価される座標)に変わりました。厳しい座標訂正に見えて、実際には書類の通過も、面接での語りの一貫性も、目に見えて良くなりました。
何を申し上げたいかと言うと、地図の最初の使い道は「見栄えのする自己紹介を作ること」ではなく、「自分に正確になること」だということです。正確な現在地からしか、最短経路は引けません。
6. よくいただく質問
Q. 3軸のどれから直すのが効きますか?
動かしやすさで言うと、工程→商流→常駐の順です。工程は現職の案件内で提案同席などにより広げられる。商流は転職しないと基本的に変わらない。常駐/自社内は配属次第。つまり「いま転職すべきか、現職で半年仕込むべきか」の判断も、この動かしやすさから逆算できます。
Q. 座標が悪い場合、ありのままに書くと書類で落ちませんか?
座標を偽ると、書類は通っても面接で必ず崩れます。それより、悪く見える座標の中の資産——常駐なら現場適応力、下流なら完遂力——を先に言語化して添えることです。座標は事実として正確に、資産の解釈で勝負する。これが唯一、面接まで一貫性が保てる書き方です。
Q. 40パターンのうち、自分が何パターン狙えるのか知りたいです。
目安として、現在地から「書類が現実的に通る」座標は、僕の感覚ではどの現在地からでも5〜8パターンあります。ゼロという座標は、まずありません。当サイトの15問診断は、この絞り込みを簡易になぞる設計です。精緻にやりたい方は、PM Quest本体の面談で職域マップを一緒に開きましょう。
(結論) 会社名ではなく、座標で自分を語る
つまりこういうことです。「◯◯システムズでPM歴10年」ではなく、「1.5次請けで、要件定義から運用まで、常駐中心に10年。一番上流ではシステム化企画の提案に関与」——商流×工程×常駐の座標で自分を語る。座標が定まると、無数に見えた求人が「自分の座標から近い/遠い」で整理でき、応募の順番も、面接で押すべき資産も、自動的に決まっていきます。
この地図は一度引いたら終わりではありません。AIの浸透で職域の価値は動き続けています。要件定義の価値が下がり、課題設定と現場適応の価値が上がる——この地殻変動は、半年ごとに地図を引き直す理由になります。転職のときだけ開く地図ではなく、キャリアの定点観測の道具として使ってください。
地図を持たずに歩き回るのと、現在地に印をつけてから歩くのとでは、同じ努力でも消耗がまるで違う。まずは現在地の確認からです。当サイトの15問診断も、この3軸に沿って設計しています。
皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。
PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。
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