ホンネ

SIer出身PM転職、年収レンジの現実

2026-07-06 公開 | 監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

「SIerから事業会社に行くと、年収って下がりますよね?」

面談でほぼ毎回出る質問です。年収の話は、綺麗事を言っても仕方がないので、率直に書きます。まず結論から言うと、SIer出身のPM転職は「上がる」とも「下がる」とも一概に言えません。行き先のカテゴリと、あなたの現在地の組み合わせでほぼ決まります。

「一概に言えない」で終わると何の役にも立たないので、今日はその「組み合わせ」を、僕らがPM Questで使っている職域マップの目安値まで開いてお見せします。年収の不安の大半は、情報の不足ではなく座標の不明から来ている、というのが僕の見立てです。

0. 前提:年収は「能力の値段」ではなく「市場の座標」で決まる

そもそも転職の提示年収とは何か。山根の定義は「あなたの能力の絶対評価」ではなく、「その市場の給与レンジの中で、あなたがどこに置かれるか」です。同じ人が、レンジ500〜900万円の市場に行けば上限900万円で頭を打ち、レンジ500〜1,500万円の市場に行けば同じ実力で1,200万円の提示があり得る。能力を磨く前に、レンジの広い市場を選ぶ——この順番を間違えると、努力が値段に反映されません。

身近な例で言うと、同じ腕の寿司職人でも、立地で客単価は数倍変わります。腕を磨くことと、店を構える場所を選ぶことは、別の意思決定なのです。

1. 行き先カテゴリ別のレンジ目安

行き先年収レンジの目安ひとこと
バーティカルSaaS PM500〜1,000万円SIer経験者が評価されやすく、内定確度とのバランスがよい
老舗Webサービス系 PM600〜1,000万円技術理解がないと書類で落ちる。モダン開発の補強が前提
新興・中規模ITコンサル500〜1,500万円レンジが広い=ポテンシャル採用が活発。上振れ余地が大きい
超大手ITコンサル(AI案件等)800〜1,500万円給与水準は最高峰クラス。相応の折衝力・語学等が問われる
事業会社の情シス・IT企画500〜1,000万円安定寄り。超大手のIT企画は枠が極端に少なく難関

※PM Quest独自ガイドの目安値です。個人のスキル・経験・企業規模で大きく変動します。統計調査の数字ではありません。

この表で注目していただきたいのは、金額そのものよりレンジの幅です。幅が広い市場(新興ITコンサルの500〜1,500万円など)は、評価によって提示が大きく変動する=ポテンシャルを買う文化がある市場。幅が狭い市場は、テーブルが固定的=過去の実績どおりに値付けされる市場です。どちらが良い悪いではなく、自分がどちらのゲームを戦うのかを先に知っておくべきだ、という話です。

2. 上げ幅が生まれる3条件

僕の体感値で言うと、レンジの上側に着地する方には共通点があります。3つに分解します。

2-1. 上流の言語化ができている

要件定義より上——課題設定・システム化企画——を自分の言葉で語れる方は、同じ経歴でも提示が変わります。「要件定義からやりました」ではなく「顧客の当初要求を問い直してスコープを作り替えました」と語れるか。詳しくは上流経験の換金法に書きましたが、ここが最も再現性の高い上げ幅の源泉です。

2-2. 掛け算を持っている

「SIer PM×金融業務」「PM×AI活用」のように、業界知識や技術の掛け算がある方。単体では平凡な要素でも、組み合わせると急に希少になります。3つの掛け算で100人に1人の希少価値になる、というのが僕の持論です。たとえば「PMができる」が10人に1人、「金融業務が分かる」が10人に1人、「AIを業務で使い倒している」が10人に1人なら、3つ揃う人は理屈の上で1,000人に1人。実際の市場感覚はもう少し緩やかですが、方向としてはこの通りに提示額へ跳ね返ります。

2-3. レンジの広い市場を選んでいる

年収テーブルが固定的な大企業より、レンジが広い=評価で変動する市場のほうが、交渉の余地そのものが大きい。0章で書いた「座標の選択」です。

3. 一時的なダウンをどう考えるか

とはいえ、大手SIerの給与水準は高く、転職直後は下がるケースも普通にあります。ここで見るべきは初年度の額面ではなく、5年後の職域です。

誤解を恐れず言うと、いま「管理だけのPM」の職域は、AIに最も速く侵食されている場所です。進捗管理・課題管理・報告資料の作成——この辺りはすでにAIが叩き台を作る時代に入っています。管理だけのPMのまま高年収を維持する5年と、一時的に下げてでも課題定義やプロダクトの数字に踏み込んでいく5年。後者を選んだ方が、結果的に年収曲線も上を向く——これはあくまで山根の個人的な見解ですが、面談の現場で繰り返し見てきた実感です。

逆に申し上げると、「下げてでも行く価値がある行き先か」を判定する基準も職域です。年収が下がる上に職域も広がらない転職は、単なる損です。下げる場合は必ず「この転職で職域がどこからどこまで広がるのか」を言語化してから決めてください。

4. 年収交渉の場で実際に起きていること

座標の話だけで終わると実務に降りないので、オファー面談の裏側も書いておきます。企業が提示額を決めるとき、実際に見ているのは大きく3つです。①社内の給与テーブルとの整合(現社員より高くできるか)、②現年収からの上げ幅の相場感、③「この人を逃したくない度」。

このうち候補者が動かせるのは③だけです。そして③を動かすのは、交渉のテクニックではなく、選考の過程で「この人は課題を解ける」と思わせた回数です。つまり年収交渉は、オファー面談で始まるのではなく、一次面接の一言目から始まっている。これが、僕が「交渉より座標」と申し上げるもう一つの理由です。座標の良い市場で、選考中に課題解決の片鱗を見せ続けた人には、交渉するまでもなくレンジの上側が提示されます。

逆に、オファーが出てからの上乗せ交渉で動く幅は、僕の体感値で言うと限定的です。他社オファーとの比較材料がある場合を除き、提示後の交渉に過度な期待をかけるより、選考中の見せ方に力を入れるほうが、投資対効果ははるかに高い。

5. 年代別の考え方——同じ表でも読み方が変わる

もう一つ、1章の表は年代で読み方が変わります。

30代の方は、レンジの上限より「職域の広がる速度」を優先してください。この年代の500万円の差は、5年後の職域次第でいくらでも逆転します。むしろ警戒すべきは、高年収だが職域が固定される席です。

40代の方は、掛け算の完成を優先。既にお持ちの業界知識×PM経験に、AI活用をこの1〜2年で足せるかどうかが、レンジの上側か下側かの分水嶺になると見ています。

50代の方は、レンジの数字より「年齢許容度」の高い市場を選ぶことが先決です。同じ800万円でも、45歳を超えると書類が通りにくくなる市場と、経験年数がそのまま評価される市場がある。発注側の情シスや業界特化領域は後者です。額面の最大化より、土俵の選択を。

誤解がないように申し上げると、これは「年齢で妥協せよ」という話ではありません。年代ごとに、同じ努力が最も値段に変わりやすい場所が違う、という配分の話です。

6. よくいただく質問

Q. 現年収を低く伝えれば、通過しやすくなりますか?
お勧めしません。現年収は多くの場合オファー時に確認されますし、そもそも通過しやすさは希望年収の高低より「価値が伝わったか」で決まります。正直な現年収+「重視するのは初年度の額面より職域」というスタンス表明が、結局いちばん交渉力があります。

Q. 家族に「年収ダウンの転職」をどう説明すれば?
面談で本当によく出る話題です。僕がお勧めしているのは、額面の増減ではなく「5年後にどんな仕事の依頼が来る自分か」で説明することです。管理だけのPMの席が細っていく見通しと、職域を広げた場合の選択肢の広がり。この構造を共有すると、家族会議の質が変わったという声を多くいただきます。転職は本人のものですが、意思決定は家族のものです。

Q. オファーの数字がレンジの下側でした。断るべきですか?
数字だけで断る前に、「何が埋まればレンジの上側だったのか」を必ず聞いてください。答えが「AI案件の実績」のような埋められるものなら、入社後の昇給パスの話に変えられます。答えが曖昧なら、評価制度そのものが曖昧というシグナルなので、それは数字より重要な判断材料です。

(結論) 年収は「交渉」より「座標の選択」で決まる

整理します。①年収は能力の絶対評価ではなく市場の座標で決まる。②レンジの幅を見て、自分がどちらのゲームを戦うか選ぶ。③上げ幅の源泉は、上流の言語化・掛け算・市場選択の3つ。④一時的ダウンは「5年後の職域」で判定する。

なお、年収の話はどうしても額面の比較に目が行きますが、SIerからの転職では残業代・裁量労働・賞与の構造が変わるケースが多く、額面が同じでも手取りの景色が変わることがあります。オファー面談では必ず、基本給・賞与・みなし残業の内訳まで確認してください。内訳を聞くことは失礼ではありません。むしろ数字を確認する姿勢そのものが、PMらしい誠実さとして伝わります。

額面の上下だけで判断せず、職域が広がる方向かを必ず併せて見てください。年収の質問に「一概に言えません」としか答えないエージェントより、座標で答えられる自分になっておくことが、一番の交渉力だと考えています。

そしてもう一つ。座標の選択は、一人で悩むより地図を持っている人と一緒に見るほうが速い、ということも申し添えておきます。僕らが職域マップを公開しているのは、まさにこの「一人で悩む時間」を減らすためです。

皆さんいかがでしたでしょうか。自分の座標と現実的なレンジを知りたい方は、15問診断からどうぞ。では今日もがんばりましょう。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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