SIer PMが事業会社面接で聞かれる「予算をどう握ったか」の答え方

「予算って、どうやって握ってたんですか?」——事業会社の面接でこう聞かれて、頭が真っ白になったんです。だって僕、見積もりは書いてたけど、予算を『握った』覚えはなくて……。
先日、こういう相談を受けました。SIer出身のPMの方が、事業会社の面接でつまずく典型的なポイントです。僕の体感値で言うと、上流経験を語れる人ほど、この質問で一度は足を止めます。今日はこの「予算をどう握ったか」という問いの正体と、皆さまが持っている経験をどう翻訳すればいいのかを、なるべく現場に接地して書いていきます。
0. この質問の正体を先に定義する
そもそも「予算を握る」とは何か。山根の定義は「お金の使い道について、選択肢を作り、どれかを選び、その結果に説明責任を負うこと」です。3つの動詞が入っていることに注目してください。選択肢を作る、選ぶ、説明責任を負う。このどれか一つでも自分がやっていれば、それは「握った」経験の一部です。全部を一人でやった人だけが握ったことになる、という誤解が、SIer出身の方を必要以上に萎縮させています。
まず結論から言うと、事業会社の面接官が「予算をどう握ったか」と聞くとき、知りたいのは金額の大きさではありません。彼らが見ているのは、「あなたはお金の使い道を決める側にいたのか、決められた枠の中で動く側にいたのか」という一点です。つまり、意思決定への関与度合いを、予算という具体的なレンズを通して確認しているわけです。
誤解がないように申し上げると、SIerで見積もりや稟議を通してきた経験は、決して意思決定と無縁ではありません。ただ、その経験が「握った」という言葉に翻訳されないまま棚に置かれているだけ。これは翻訳の問題であって、経験不足の問題ではないと僕は思っています。
1. なぜSIer出身者はこの質問で詰まるのか——2つの構造
詰まる理由は、大きく2つの構造に分解できます。
1-1. お金の「出所」が客先だったから
受託開発では、予算は基本的に客先が持っています。皆さまがやってきたのは、その予算に対して見積もりを出し、妥当性を説明し、承認をもらうこと。これは高度な仕事です。ただ、主語が「自社がこの投資でこれだけ回収する」ではなく「お客様の予算内でどう実現するか」になりがちなんですね。
事業会社では、予算は自社の投資です。使ったお金が売上や効率化で返ってくるかを、PM自身が説明責任を負う。この主語の違いが、「握る」という感覚のズレを生んでいると考えています。身近な例で言うと、家計で言えば「渡された食費の中でやりくりする」のと「家全体の支出配分を決める」の違いです。やりくりの巧拙と、配分を決める判断は、別の筋肉なのです。
1-2. 承認プロセスを「握った」と認識していないから
もう一つは、自己認識の問題です。皆さまは実は、けっこう握っています。見積もりの前提を組み、バッファをどこに置くか判断し、追加要件が出たときに費用交渉をし、社内の原価と客先予算の間で着地点を探る——これは全部、お金の意思決定です。ただ「言われた通りに稟議を回しただけ」と自分で矮小化してしまう。ここが、もったいないところです。
僕がnoteで繰り返し書いている話ですが、優秀な方ほど「自分のことが自分で見えていない」という逆説があります。自分の業務を自分でオブジェクト化——一度自分の前に投げて客観視——できていないと、日常業務に埋まった意思決定は「作業」として記憶されてしまう。予算の話は、その典型例です。
| SIerでの実際の行動 | 翻訳後の語り方 |
|---|---|
| 見積もりのバッファ設計 | リスクを金額に換算し投資判断の材料を作った |
| 追加要件の費用交渉 | スコープと予算のトレードオフを主導した |
| 原価管理・工数調整 | 限られた予算で成果を最大化する配分を決めた |
| 客先への投資対効果説明 | ステークホルダーに投資の妥当性を説明し承認を得た |
2. 「握った」を語る3つの分解軸
では具体的に、面接でどう語ればいいか。僕が社内で使っている整理ですが、以下の3つの軸に分解すると、SIerの経験がそのまま「握った」経験に変換できます。
- 金額の裁量:いくらまでを自分の判断で動かせたか。全額を握っていなくても「この範囲は自分の判断だった」と言える線引きがあれば十分です。
- トレードオフの主導:予算・スコープ・納期の三つ巴で、何を削り何を守るかを誰が決めたか。ここで「自分が選択肢を作って提案した」と言えると強い。
- 説明と説得の相手:誰に対して投資の妥当性を説明したか。客先の役員でも、自社の営業部長でも構いません。決裁者を動かした経験は、そのまま事業会社で通用します。
この3軸で棚卸しすると、「予算を握った覚えがない」と思っていた方でも、たいてい2つは語れる材料が出てきます。冒頭の相談者の方も、棚卸しをしてみたら「追加要件のたびに、削る機能の選択肢を自分が作って客先の部長に選ばせていた」経験が出てきました。それは選択肢を作り、決裁者を動かした話です。立派に握っています。
3. 語り方の型——縦・横・斜めで一つのエピソードを厚くする
経歴は縦・横・斜めで語れ、というのが僕の持論ですが、予算エピソードも同じです。一つの案件を三方向から厚くすると、聞き手の解像度が一気に上がります。
- 縦(深さ):その予算判断で、何を根拠にどう決めたか。数字の前提まで遡って語る。
- 横(広がり):その判断が、他の部署・工程・お客様の事業にどう波及したか。
- 斜め(意外性):本来やらなくてよかったのに、あえて踏み込んで交渉した部分。ここに人柄と当事者意識が出ます。
たとえば「追加要件で当初見積もりを30%超える見込みだったが、優先度の低い機能をフェーズ2に切り出す再設計を提案し、客先の年度予算内に収めた」——これは立派に予算を握った話です。金額の大小ではなく、判断の主体が自分だったことが伝わればいい。
4. やってはいけない語り方
最後に、逆効果になる語り方を挙げておきます。これは僕が面接同席の場で何度か見てきた失敗です。
一つは、金額の桁で勝負しようとすること。「10億円のプロジェクトを担当」と言っても、その10億の使い道を自分が決めていなければ、規模の話で終わってしまいます。もう一つは、「予算はお客様が決めることなので」と最初に線を引いてしまうこと。これは謙虚に聞こえて、実は「私は決める側にいませんでした」と自己申告しているのと同じなんですね。
誤解がないように申し上げると、嘘をつけと言っているわけではありません。自分が実際に触れた判断の範囲を、正しい言葉で語り直すだけです。それだけで、印象はまったく変わります。
5. 面接直前の準備——3つの質問に自分で答えておく
ここまでの内容を、面接前夜に確認できる形に落としておきます。次の3問に、声に出して答えてみてください。
- 「あなたが金額に影響を与えた判断で、いちばん大きかったものは?」——金額の裁量の棚卸し。見積もりのバッファ設計でも、フェーズ分割の提案でも構いません。
- 「予算・スコープ・納期がぶつかったとき、あなたは何を提案しましたか?」——トレードオフの主導。「上と客先が決めた」で終わる案件しか思い出せない場合は、選択肢の原案を誰が作ったかまで遡ってください。原案作成者は、たいていあなたです。
- 「その判断を、誰に、どう説明して通しましたか?」——説得の相手。役職と、相手が最初に渋った理由、それをどう崩したかまで言えると、エピソードとして完成します。
3問ともスラスラ答えられたら、もう「予算を握ったことがない人」ではありません。答えに詰まった問いがあれば、それが面接までに埋めるべき唯一の宿題です。
ついでに申し上げると、この3問はそのまま逆質問にも転用できます。「御社ではPMはどこまで予算の裁量を持ちますか?」——この質問ができる候補者は、予算を「握らされる不安」ではなく「握りにいく前提」で話している。面接官への印象は、それだけで違います。
6. よくいただく質問
Q. 予算に本当に一度も触れていないキャリアの場合は?
工数はどうでしょうか。人月の配分、増員の要求、残業の判断——工数はSIerにおけるもう一つの通貨です。「お金は握っていませんが、20人月の配分は私が決めていました」は、立派に資源配分の意思決定の話として通ります。予算という言葉に縛られず、「限られた資源の使い道を決めた経験」まで問いを広げて棚卸ししてください。
Q. 正確な金額を面接で言っていいのでしょうか?
守秘義務の観点から、概算・レンジでぼかすのが作法です。「数千万円規模」「当初見積もりの3割相当」という言い方で、判断の構造は十分伝わります。むしろ具体的な社名と正確な金額をセットで話す方は、「うちの情報も外で話すのでは」という不安を持たれます。ぼかし方の丁寧さも、評価の対象です。
Q. 事業会社に入った後、予算感覚はどう身につけますか?
最初の四半期で「自分のチームの月次コスト」を自分で計算してみることをお勧めしています。人件費・ツール・インフラを足すと、自分たちが毎月いくらの投資で動いているかが見える。この数字を持って機能の優先順位を語り始めた瞬間から、あなたは「握る側」です。
(結論) 質問は否定ではなく、翻訳の要求
つまり、「予算をどう握ったか」という質問は、皆さまの経験を否定しにきているのではなく、翻訳を求めにきているのだと僕は考えています。SIerで見積もりを組み、トレードオフを判断し、決裁者を説得してきた——その行動の主語を「自分が決めた」に置き換えるだけで、それは立派に予算を握った経験になります。
金額の大小で怯む必要はありません。裁量・トレードオフ・説得相手の3軸で棚卸しし、一つのエピソードを縦・横・斜めで厚くする。個人的には、この準備をしておくだけで、面接の空気が変わる場面を何度も見てきました。皆さまの経歴は、思っているよりずっと「握って」いるはずです。
皆さんいかがでしたでしょうか。自分の経験の翻訳を一緒に進めたい方は、15問診断かキャリア面談をご利用ください。では今日もがんばりましょう。
PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。
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