コンサル経歴の縦・横・斜め——ファーム名で語るのをやめる

「ご経歴を教えてください」「はい、◯◯コンサルティングで6年、その前は△△で3年です」。面談がこう始まったとき、僕はまだその方の市場価値をほとんど知りません。ファーム名は「どこにいたか」を語りますが、「何ができるか」を語らないからです。僕が普段お伝えしているのは、経歴は縦・横・斜めで語れ、という棚卸しのフレームです。
この「縦・横・斜め」は、僕が面談やnoteの発信で繰り返し使っている自前のフレームです。もともとは、コンサルやPMの方の経歴が複雑すぎて、時系列で聞いても本人の強みがまるで立ち上がってこない、という問題意識から生まれました。プロジェクトを10個並べられても、面接官の頭には残りません。3本の軸に畳み直した瞬間に、同じ経歴が急に立体になる。今日はそのフレームの使い方を、コンサル出身の方向けに具体例まで落として説明します。
0. 縦・横・斜めの定義
- 縦=レイヤーの深さ——経営(CxO)・事業・IT・現場のどこまで深く食い込んだか。役員会で議論した経験と、現場に入り込んで業務を変えた経験は、どちらも「深さ」です。マネジメントの規模(何名を率いたか)や案件の重さ(人月・予算)もここに含まれます。
- 横=職域の幅——戦略・構想 → 企画・要件定義 → 実行・導入・定着のうち、どこからどこまで担ったか。隣の職域(PMO・開発・事業開発)にどれだけ染み出したかも横です。
- 斜め=業界の横断——金融×製造×公共のように、複数業界の課題構造を見てきた経験。コンサル出身者が最も持ちやすく、最も語り忘れる資産です。
3軸それぞれは、単独ではそれほど珍しくありません。効いてくるのは掛け算です。僕の体感値で言うと、ITコンサルの経験とPMとしての実行経験を両方持つ方は市場の15%未満、そこに複数業界の横断が掛かると、もう一段絞られます。3つの軸の掛け算で、100人に1人の希少価値になる。これがこのフレームの狙いです。
1. なぜファーム名では伝わらないのか
同じファームの同じ在籍年数でも、「経営レイヤーで構想だけを3業界」の人と、「IT部門で導入伴走を1業界」の人がいます。狙うべき求人は正反対です。採用側もそれを知っているので、ファーム名は「地頭の担保」程度にしか効きません。つまり、ファーム名で語る経歴書は、一番高く売れる部分を空欄にしているのです。
もうひとつの問題は、情報の散乱です。コンサルの方の職務経歴書は、案件を時系列で並べると平気で3〜4ページになります。読み手はどうなるか。「いろいろやっている方だな」で終わります。いろいろやっている、は褒め言葉ではありません。「結局この人の何が強みなのか分からない」の丁寧な言い換えです。情報量を増やすのではなく、3軸に畳んで構造を先に見せる。プレゼンで最初に目次を出すのと同じことを、経歴でやるだけです。
2. 3軸で座標を打つと、進路が見える
| 座標の例 | 親和性が高い進路 |
|---|---|
| 縦:経営レイヤー/横:構想中心/斜め:3業界以上 | 事業会社の経営企画・事業開発、社長直下の変革PJ |
| 縦:IT部門/横:構想〜導入/斜め:1〜2業界 | 事業会社DX推進・IT企画、発注側の変革PM |
| 縦:現場レイヤー/横:要件〜定着/斜め:特定業界が深い | その業界のバーティカルSaaSのPM/PdM |
| 縦:経営〜現場を貫通/横:構想〜実装/斜め:問わず | フォワードデプロイドPM(FDPM)——最も希少な座標 |
4つ目の座標——経営から現場までを貫通し、構想から実装まで担える人——について補足しておくと、これは僕が社内で「フォワードデプロイドPM(FDPM)」と呼んでいる、いま最も希少な人材像です。参考までに、開発とインフラの両方を経験している方は市場の2%程度、実装まで自分の手でやったことのある上流人材となると0.2%程度、というのが僕の体感値です。ここまで来ると、求人に応募するというより、求人のない企業からポジションを作ってもらう側になります。
この表の使い方はシンプルで、まず自分の座標を等身大で打ち、その行の進路から応募戦略を組み立てる。逆に、狙いたい進路が決まっている場合は、足りない軸がどれかが見えるので、次の案件選びの指針になります。「経営企画に行きたいが縦が現場レイヤー止まり」なら、現職で経営報告の場に出る機会を取りに行く、という具合です。
2-1. 面接の冒頭で「枠組み宣言」をする
このフレームは経歴書だけでなく、面接の話法としても使えます。お勧めしているのは、経歴説明の冒頭でこう宣言することです。「私の経歴を3つの軸でご説明します。レイヤーの深さ、職域の幅、業界の横断です」。たったこれだけで、面接官はあなたの話を格納する棚を先に用意できます。棚のない状態で10案件を聞かされるのと、3つの棚に整理されて聞くのとでは、終わったあとの記憶の残り方がまったく違う。面接は内容の勝負である前に、面接官の頭の中を整理してあげる勝負でもあるのです。
2-2. 経歴書サマリーの書き換え例
Before:「◯◯コンサルティングにて6年間、金融・製造業向けのDX案件に多数従事。戦略立案から実行支援まで幅広く経験」
After:「【縦】全社変革PJで役員会レベルの意思決定に2年間関与(予算数億円規模)【横】構想策定から要件定義・導入定着まで一気通貫で担当した案件が3件【斜め】金融・製造・公共の3業界で、同型の業務改革を経験——業界を跨いで再現できる型を持っています」
Beforeの「幅広く経験」は、何も言っていないのと同じです。Afterは同じ事実の並べ替えにすぎませんが、読み手には「この人は自分の値札の付き方を分かっている」というメタ情報まで伝わります。
2-3. 数字で「重さ」を添える
3軸の語りに説得力を与えるのは、最後は数字です。縦なら「何名のチームを、いくらの予算で、何ヶ月」。僕が面談で必ず伺うのもこの3点セットで、たとえば「3億円規模・50人月・約2年」の案件を回した経験は、その一行だけで縦の深さが伝わります。横なら「構想から定着まで、8つの工程のうちどこからどこまで」。斜めなら「何業界を、それぞれ何年」。数字のない3軸は骨組みだけの家です。逆に、数字だけが並んで軸のない経歴書は、資材置き場です。骨組みに数字を載せて、はじめて住める家になります。
ここで注意をひとつ。数字は盛らないでください。面接官は必ず深掘りします。「50人月とのことですが、体制図はどうなっていましたか」と聞かれて答えに詰まった瞬間、他の数字まで全部疑われます。小さくても正確な数字は、大きくて曖昧な数字に勝ります。
3. 斜めの資産を捨てない
ひとつだけ強調させてください。業界横断の経験は、事業会社に入ると二度と手に入らない資産です。「金融でも製造でも同じ構造の課題を見た」という抽象化の力は、1社の中で育った人には本当に真似ができません。面談でこの話をすると、「業界がバラバラなのは一貫性がなくて弱みだと思っていました」と仰る方が結構います。逆です。バラバラに見える経験を「同じ課題構造の3つの現れ」として語り直せた瞬間、弱みは希少性に変わります。転職後もこの斜めの視点を自分の看板に残すことを、僕は強くお勧めしています。
実際、あるメーカーのDX推進部門の責任者が採用の決め手として挙げていたのは、案件の実績ではなく「他業界ではこの問題をこう解いていました、と言える引き出しの数」でした。社内の常識に染まっていない目は、それ自体が採用理由になります。
3-1. 実際にあった「斜め」の換金例
印象に残っている例をひとつ(詳細はぼかします)。金融・製造・小売の3業界でBPR案件を渡り歩いてきた30代後半の方が、当初は「専門業界がないのが弱い」と自己評価されていました。面談で経歴を3軸に畳み直したところ、この方の本当の商品は「現場ヒアリングから業務フローの再設計までを、業界の前提知識ゼロから最短で立ち上げる型」だと分かった。この型を経歴書の冒頭に据えて、多角化を進める事業会社の変革部門に応募したところ、面接では業界経験の不足はほとんど問われず、「うちの新規事業側でもその型は使えるか」という前のめりの質問が中心になったそうです。売り物の定義を変えただけで、同じ経歴の面接がまったく別の場になる。斜めの資産とは、こういう効き方をします。
4. 誤解がないように申し上げると
3軸すべてが強い必要はありません。むしろ全部を主張すると、また「いろいろやっている人」に戻ってしまいます。勝負軸は1本、支え軸が1本、残りは無理に飾らず「これから」で構いません。大事なのは、どの軸で勝負するかを自分で決めてから市場に出ることです。値札を付けずに店頭に並ぶ商品は、買い手が勝手に安く値付けします。経歴も同じです。
(結論) ファーム名は名刺であって、経歴ではない
ファーム名は名刺であって、経歴ではありません。縦(レイヤー)・横(職域)・斜め(業界)の3軸で自分の座標を言語化する。経歴書の冒頭サマリーをこの3行に書き換え、面接の冒頭で枠組みを宣言する。それだけで、同じ経歴の見え方も、求人の見え方も変わります。あくまで山根の個人的な見解ですが、コンサル出身の方の転職支援で、費用対効果が最も高い作業はこの棚卸しだと思っています。
皆さんいかがでしたでしょうか。自分の座標がどの進路と親和性が高いのか、確かめたい方は下の3分診断からどうぞ。では今日もがんばりましょう。
PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。
この記事を、eBookで持ち帰る。
本記事をスライド形式のPDF(16:9・全14ページ)に再構成しました。お名前とメールアドレスのご登録だけで、その場でダウンロードできます。
あなたの現在地から、具体的に考えたい方へ
まずは3分の「ITコンサル出身PM適性診断」で進路タイプを掴むか、PM Quest本体のキャリア面談(無料・事前準備不要・オンライン可)をご利用ください。
3分診断をやってみる → PM Questでキャリア面談 →