キャリア戦略

「上流だけ」の何が問題か——構想の叩き台をAIが書く時代に

2026-07-06 公開 | 監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

「私は上流専門なので、手を動かす仕事はちょっと」。キャリア面談でこう仰る方は少なくありません。お気持ちは分かります。上流に行くことがコンサルのキャリアの王道とされてきたからです。ただ、まず結論から言うと、「上流だけ」という立ち位置は、2026年の現在、静かにリスクに変わり始めています

脅すために言っているのではありません。僕自身、PM特化の人材紹介として日々求人と候補者の両側を見ている中で、市場の風向きの変化を肌で感じているからこそ、早めにお伝えしておきたいのです。そして先に申し上げておくと、この記事の結論は「上流を捨てろ」ではありません。上流の中身を分解して、守るべき部分と手放すべき部分を仕分けしましょう、という話です。

0. まず「上流信仰」がどこから来たかを振り返る

そもそも、なぜ「上流ほど偉い」という感覚が業界に根付いたのか。理由は単純で、長らく上流の成果物を作れる人が希少だったからです。業界構造の中で、要件定義より上の工程——IT戦略、DX構想、業務改革の絵を描く仕事——は、限られた経験者にしかできなかった。希少だから単価が高く、単価が高いからキャリアの上がり先とされた。この構造自体は合理的でした。

キャリアの相談の場でも、この信仰は強固です。「次はもっと上流に行きたい」「実行から離れたい」という言葉は、面談でほとんど枕詞のように出てきます。誰も疑ってこなかった、業界の共通OSのようなものだと思います。

問題は、この希少性の前提が崩れ始めていることです。生成AIの登場で、「上流の成果物を作る」コストが劇的に下がりました。業界調査のサマリー、DX構想のドラフト、ロードマップの初版。僕自身、日々の業務でAIに叩き台を書かせていますが、数年前のジュニアコンサルの成果物と遜色ないものが数分で出てきます。参考までに、ソフトウェアエンジニアの求人はIndeedのデータで2022年比およそ半分まで減ったとされています。実装側で起きたことが、上流側で起きない理由を、僕は思いつきません。

1. 「上流」の中身を3層に分解する

ひとくちに上流と言っても、中身は3層に分かれます。①調査・分析・資料化、②構想・企画の叩き台づくり、③意思決定を動かす折衝と合意形成。ここが重要なのですが、①と②は、生成AIが最も得意とする領域です。

上流の中身AI代替今後の市場価値
①調査・分析・資料化進行が速い単体では換金しにくくなる
②構想・企画の叩き台進行中「叩き台を評価し選ぶ側」に価値が移る
③折衝・合意形成・実行の設計当面困難むしろ上がる

つまり、上流のすべてが危ないのではありません。「助言で終わる上流」が削られ、「実行に接続する上流」の価値が上がる。この分解が本記事で一番お伝えしたいことです。

1-1. なぜ③は残るのか

③が残る理由は、AIの性能の問題ではなく、責任の所在の問題だからです。役員会で反対派の常務を説得する、現場の抵抗を織り込んでロールアウトの順番を設計する、失敗したときに矢面に立つ。これらは「誰がやったか」自体が価値の一部であって、成果物の品質だけでは代替できません。身近な例で言えば、結婚式のスピーチ原稿はAIが書けても、壇上に立って空気を読みながら話す仕事は原稿とは別物である、というのに近い感覚です。

1-2. 自分の上流比率を棚卸しする

ここで一度、ご自身の直近3年の案件を思い出してみてください。稼働時間のうち、①②と③の比率はどれくらいだったでしょうか。デリバリータイプで言えば、アドバイザリー型(助言して終わる)だったのか、実行伴走型(導入・定着まで並走する)だったのか。僕の体感値で言うと、「上流専門です」と仰る方の中でも、実は③や伴走の経験を豊富に持っている方が半分くらいいます。持っているのに、経歴書に書いていない。これは単純にもったいない話で、逆に言えば書き方だけで市場価値の見え方が変わるということです。

2. 職域を「下」に伸ばすという戦略

ではどうするか。僕がお勧めしているのは、職域を上ではなく下(実行側)に伸ばすことです。要件定義の先の設計・実装の会話に入れること。AIツールでプロトタイプを自分で作って見せられること。導入後の定着まで設計できること。

これは僕が社内で呼んでいる用語なんですけど、課題設定から設計・実装まで一気通貫で担うPMを「フォワードデプロイドPM(FDPM)」と呼んでいます。AIで職種の垣根が溶けていく中で、単一職能——「上流だけ」「実装だけ」——は守りにくくなり、職域の幅そのものが希少価値になる。上流出身のコンサルが実行力を足すルートは、このFDPMへの最短経路のひとつだと考えています。

「今さら実装なんてできない」と思われるかもしれません。でも、求められているのはエンジニアになることではありません。生成AIで動くプロトタイプを自分の手で組み、エンジニアと設計の会話ができ、技術的な意思決定の場に座れること。ゼロからコードを書く力ではなく、実行側との距離を詰める力です。この距離は、幸いなことに、今はAIツールのおかげで歴史上いちばん詰めやすくなっています。上流の思考力がある人ほど、AIに的確な指示を出せるので、実は伸びが速い領域です。

2-1. 実際にあった例

ひとつ、印象に残っている例を挙げます(詳細はぼかします)。ITコンサルで構想策定を専門にしてきた40代前半の方が、Webプロダクト系の面接で続けて落ちていました。理由はいつも同じで、「実行のイメージが持てない」。その方が転機にしたのは、転職活動をいったん止めて、自分の過去の提案のひとつを生成AIツールで動くプロトタイプに仕立てたことでした。3週間ほどの独学だったそうです。次の面接でそれを見せたところ、面接官の質問が「実行できますか?」から「これ、どう作ったんですか?」に変わった。採用側の目線が疑いから興味に切り替わった瞬間です。最終的にその方は、構想と実装検証の両方を担うポジションで内定を得ました。プロトタイプの完成度自体は、正味のところ粗いものでした。それでも効いたのは、「この人は助言で終わらない」という証拠物件になったからです。

2-2. 下に伸ばす先は実装だけではない

「下に伸ばす」の行き先は、コードだけではありません。隣接する職域——PMO、実行支援、導入後の定着設計、カスタマーサクセス的な運用改善——も立派な実行側です。30代の方なら、現職域から隣接する2つの職域へ意図的に染み出していく戦略をお勧めしています。たとえばDX構想が専門なら、要件定義の現場に一段降りる+AI活用の設計に一歩踏み込む。この「隣接2領域への拡張」だけで、語れる求人の幅は目に見えて変わります。

3. 明日からできる3つの行動

何を申し上げたいかと言うと、3つとも「上流の看板を下ろせ」とは言っていません。上流の思考力という土台の上に、実行への接続を一枚足すだけです。その一枚があるかないかで、書類の通り方が変わります。

3-1. 順番にも意味がある

3つの行動には順番があります。まずプロトタイプ(今週末からできる・費用ゼロ)、次に案件の寄せ替え(次のアサインのタイミングで)、最後に経歴書(前の2つの材料がそろってから)。逆にやると、書くことがないまま経歴書だけを飾ることになり、面接の深掘りで崩れます。小さく作って、現場で試して、それから語る。奇しくも、これ自体がアジャイルの作法です。上流専門だった方が実行側の作法でキャリアを作り直すこと自体に、面接で語れる価値があると僕は思っています。

4. 誤解がないように申し上げると

上流の仕事が明日なくなる、という話ではありません。エンタープライズの大型変革で、経営と現場を動かす③型の上流人材は、むしろ枯渇しています。また、①②の仕事も「AIの叩き台を評価し、選び、磨く側」としては残ります。危ないのは、①②の作業量そのものを自分の価値だと定義してしまうことだけです。資料を作る速さで勝負している限り、相手は人間ではなくAIになります。勝負の土俵を、作る速さから「実行を動かせるか」に移す。それがこの記事の提案のすべてです。

(結論) 「上か下か」ではなく「どこからどこまでか」

上流特化は、AIが構想の叩き台を書く時代には守れない城です。逆に、上流の思考力に実行を足した人材は簡単には代替されません。キャリアを職位の高さで語る時代から、職域の幅で語る時代へ。「上か下か」ではなく「どこからどこまでか」。あくまで山根の個人的な見解ですが、この切り替えを早くやった人から順に、次の5年の選択肢が広がっていくと考えています。

皆さんいかがでしたでしょうか。自分の職域の幅が今の市場でどう評価されるのか、気になる方は下の3分診断からどうぞ。では今日もがんばりましょう。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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