決裁権のないPMは通用するか——コンサル出身が事業会社で試される「決める」の重さ
- コンサル出身PMの面接落ちの体感的な最多要因は、スキル不足ではなく『自分で決めた経験』を語れないことだと僕は考えています。
- 決裁権は役職ではなく、外したときに引き取る覚悟の有無で判断されます。肩書きがなくても『決めて動かした』事実があれば評価は変わります。
- 提案の実績を決裁の実績へ翻訳する鍵は、選択肢を捨てた理由と、その後の結果責任をどう負ったかをセットで語ることです。
「僕、コンサルで大きなプロジェクトをいくつも回してきたんです。それなのに事業会社のPM面接で『あなたは何を決めてきましたか』と聞かれて、答えに詰まってしまって……。提案書は山ほど書いたのに、自分で決めた記憶がなくて。」——先日、大手ファーム出身で30代後半の方から、こんな相談をいただきました。優秀な方でした。だからこそ、この問いに詰まったことが本人には相当こたえたようです。
まず結論から言うと、コンサル出身の方が事業会社PMの面接で落ちる要因は、スキル不足ではないと僕は考えています。僕の体感値で言うと、最も多いのは「自分で決めた経験を語れない」ことです。今日はこの「決裁権」というテーマを、面接の現場に接地して掘り下げていきます。
0. 「決裁権」という言葉を先に定義する
誤解がないように申し上げると、ここで言う決裁権とは、稟議書にハンコを押す権限のことではありません。役職や社内規程上の権限の話をしているのではないのです。僕が社内で呼んでいる用語ですが、面接官が知りたいのは「実質的決裁経験」です。つまり、複数の選択肢がある中で自分が一つを選び、それを組織に飲み込ませ、結果が出るまで引き取った——そういう一連の経験があるかどうか。
これは肩書きとは切り離して判断されます。課長でなくても、平のメンバーでも、実質的に「この方向で行く」と決めて周囲を動かした事実があれば、それは立派な決裁経験です。逆に、部長という肩書きがあっても、上に判断を仰ぐだけの伝達役だったなら、決裁経験としては弱い。ここを取り違えると、面接での答え方がずっとズレたままになります。
1. なぜコンサル出身は「決めた経験」を語りにくいのか
コンサルの仕事の構造上、これは仕方のない面があると個人的には思っています。コンサルタントの成果物は、最終的にクライアントが意思決定するための材料です。選択肢A・B・Cを並べ、それぞれのメリットとリスクを整理し、推奨案まで示す。ここまでが仕事です。しかし最後にどれを選ぶかの決裁は、クライアント側にある。
つまり、コンサルの世界では「決める人」と「材料を作る人」が構造的に分離しているのです。これはコンサルという職業の価値そのものでもあるので、悪いことでは全くありません。ただ、この構造に長く身を置くと、無意識のうちに「私は助言する立場」という思考の型が染みついてしまう。面接で「何を決めましたか」と聞かれたときに、反射的に「私はこう提案しました」と答えてしまうのは、この型のせいだと僕は見ています。
この「提案で終わるか、背負い続けるか」という時間軸の違いは、コンサルと事業会社の間にある最も根深い壁の一つでもあります。この壁の構造についてはPM Quest Consulの関連記事でも繰り返し触れているテーマです。
2. 面接官が「決めた経験」で本当に見ているもの
ではなぜ、事業会社の面接官はそこまで「決めた経験」にこだわるのでしょうか。理由はシンプルで、事業会社のPMには逃げ場がないからです。
2-1. 外したときに誰が引き取るか
コンサルの案件は、極端に言えば納品して報告会を終えれば一区切りです。その後にその施策がうまくいかなかったとしても、次のフェーズは別契約であり、責任の連続性はどこかで切れる。ところが事業会社では、自分が決めた仕様が原因でトラブルが起きれば、そのトラブルを収束させるのも自分です。決めた人と、外れたときに引き取る人が同一——ここが決定的に違う。
面接官は、この「引き取る覚悟」があるかを見ています。だから聞くのは「何を決めたか」であり、その裏で確かめているのは「あなたは外れたときに逃げない人か」なのです。身近な比喩で言えば、レストランのメニューを勧めるソムリエと、その料理を実際に作って客の反応まで責任を負うシェフの違いに近い。どちらも専門家ですが、負っているものが違います。
2-2. 決めた「後」の話ができるか
もう一つ、面接官が観察しているのは、決めた後の話ができるかどうかです。よくある答え方はこうです。「私が最適だと判断してA案を推し、それが採用されました」。ここで止まってしまう。改善するなら、こう続けます。「A案を選んだのは、B案の方が短期的には楽だったのですが、半年後の運用負荷を考えると破綻すると読んだからです。実際に稼働三ヶ月目に想定外の負荷が出て、そこは私が追加のリソース調整をして収束させました」。捨てた選択肢と、外れかけたときの引き取りまで語れて、初めて決裁経験になるのです。
3. 決裁経験を棚卸しする——三つの問い
「自分には決めた経験がない」と感じている方でも、掘れば必ず出てきます。僕がカウンセリングでよく使う三つの問いを紹介します。この作業は、経歴を縦・横・斜めで語り直す棚卸しの一部でもあります。
- 捨てた選択肢はあったか——複数案の中から一つを選び、他を捨てた場面。捨てた理由まで説明できるなら、それは判断です。
- 反対を押し切ったことはあるか——周囲が別案を推す中で、自分の判断を通した場面。合意形成のプロセスごと語れると強い。
- 外れたときに引き取ったか——自分の判断が想定と違った結果になり、その後始末を自分でした場面。ここが最も評価される。
この三つのうち一つでも当てはまる経験があれば、それは決裁の話として語れます。多くの方は、これらの経験を「提案の話」の中に埋もれさせてしまっているだけなのです。掘り起こして主語を「私が決めた」に書き換える——それだけで面接での印象は変わります。
4. 助言実績を決裁実績へ翻訳する具体例
抽象論だけでは分かりにくいので、業態×属性を抽象化した例で、翻訳の前後を対比してみます。SIer・受託出身から大手ファームを経て、40代でPM歴15年という方を想定します。
| 翻訳前(助言の顔) | 翻訳後(決裁の顔) |
|---|---|
| 基幹システム刷新の構想を策定し、経営層に提案しました。 | 刷新範囲を全面ではなく段階移行に絞る判断を主導しました。全面刷新案は現場が推していましたが、リスクを取れないと私が押し切り、初期フェーズを完遂させました。 |
| ベンダー選定の評価軸を整理して提示しました。 | 価格優位のベンダーを外し、実装体制を重視した先を選ぶと決めました。半年後に体制面で懸念が出た際は、私が契約条件を再交渉して立て直しました。 |
| PMOとして進捗と課題を管理していました。 | 遅延の原因が要件の曖昧さにあると特定し、要件を凍結する判断を提言。反対もありましたが押し通し、以降の手戻りを体感で半減させました。 |
左と右で、事実としては同じ出来事を語っているかもしれません。しかし主語と、捨てたもの・引き取ったものの有無で、伝わる人物像はまるで変わる。これが翻訳です。
5. PMOしか経験がない、という人へ
「自分はPMOしかやっていないから決裁の話なんて無理だ」と諦める方がいますが、これは迷信です。PMOの仕事の中にも、優先順位を提案して採用された場面、リスクを指摘して方針を変えさせた場面は必ずあります。それを「管理していました」で終わらせず、「こう決めるべきだと主張し、その通りに動かした」と語り直せばいい。
もっとも、PMOとPMの境界は面接官が最も厳しく見るポイントの一つで、単なる言い換えでは見抜かれます。実際に自分の判断で状況が動いた事実がなければ翻訳はできません。ここは正直であるべきです。PMOとPMの分水嶺をどう越えるかは、それ自体が大きなテーマなのでPM職域マップ40パターンで自分の現在地を確認してみるのが早いと思います。決裁の色が強い職域と、管理色が強い職域は、同じPMという言葉でも別物として整理されています。
6. 45歳以上の方が意識すべきこと
年齢が上がるほど、この「決めた経験」の比重は増します。若手なら伸びしろで評価されますが、40代後半以降のPMには、組織を動かして結果を出した実績が明確に求められる。逆に言えば、豊富な決裁経験こそがベテランの最大の武器です。若手には真似できない「修羅場をくぐって決めてきた」蓄積を前面に出すべきで、そこを謙遜して助言者の顔で話してしまうのは最ももったいない。45歳以上のPMキャリアに固有の戦い方についてはPM45+で詳しく書いています。
水平的成長より垂直的成長、とよく言いますが、決裁経験はまさに垂直の深さです。同じ領域で何度も決め、何度も外し、そのたびに引き取ってきた——その垂直の厚みは、経歴の幅では代替できません。
(結論)
つまり、コンサル出身PMが事業会社の面接で問われる「決裁権」とは、肩書きの話ではなく、選択肢を捨て、外れたら引き取った経験の話だということです。提案の実績を決裁の実績へ翻訳する——捨てた理由と結果責任をセットで語る——この一手間を怠らなければ、コンサルで培った構想力は事業会社でも十分に評価されると僕は考えています。助言者の顔から、決める人の顔へ。持っている経験は同じでも、語り方一つで市場価値は変わります。
皆さんいかがでしたでしょうか。まずは過去の案件を三つの問いで棚卸しし、「私が決めた」を主語にした一文を作ってみてください。その一文が言えるかどうかで、面接の景色は変わるはずです。より体系的に対策したい方は、面接対策ロードマップも参考にしてみてください。
よくある質問
Q. コンサル出身は決裁権がないから事業会社PMに向かない?
向かないとは考えていません。コンサルでも実質的に意思決定を主導した場面は必ずあります。問題は決裁権という肩書きの有無ではなく、『選択肢を捨て、外れたら引き取った』経験を言語化できるかどうかです。多くの方はその翻訳作業をしないまま面接に臨み、助言者の顔のまま話してしまうため評価されにくいのが実情だと思います。
Q. 面接で「何を決めましたか」と聞かれたらどう答えるべき?
結論から言うと、決めた内容そのものより『他の選択肢をなぜ捨てたか』と『外れたときにどう責任を取ったか』を語るのが効果的だと考えています。正解を当てた話は誰でもできますが、不確実な状況で選び、結果を引き取った話こそが決裁経験の証明になります。数字と一緒に、自分の判断で状況が動いた場面を1つ具体的に用意しておくと良いです。
Q. PMOしか経験がなくても決裁の話はできる?
できると考えています。進捗管理や課題管理の中にも、優先順位を提案し実際に採用された場面は必ずあります。それを『管理しました』ではなく『こう決めるべきだと主張し、その通り動かした』と翻訳すれば決裁の色が出ます。PMOとPMの境界については別記事でも触れていますが、要は誰の判断で物事が動いたかを主語にして語れるかどうかです。
PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。
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