ホンネ

ファーム出身PM転職、年収レンジの現実

2026-07-06 公開 | 監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

「事業会社に行ったら、年収って下がりますよね?」。ファーム在籍の方との面談で、ほぼ確実に出てくる質問です。率直に言うと、答えは「下がる場合が多いが、一概には言えない」。歯切れが悪くて恐縮ですが、行き先のカテゴリによってレンジの構造がまったく違うからです。

年収の話は、転職相談の中でいちばん本音が出にくいテーマでもあります。「お金で決めるわけじゃないんですが」と前置きしながら、実際には額面の一点が意思決定の8割を占めている、という場面を僕は何度も見てきました。それ自体は悪いことではありません。生活があるのだから当然です。だからこそ、建前を外して、レンジの現実と、下げ幅を抑える設計の話を正面からしたいと思います。

0. 前提:ファームの給与は「稼働の対価」を含んでいる

まず押さえていただきたいのは、コンサルファームの給与水準には、高稼働の対価と、ファームのブランドで取れる単価が織り込まれているという構造です。乱暴に言えば、あなたの年収は「あなたの市場価値」そのものではなく、「あなたの市場価値×ファームの装置」の出力です。事業会社に移るとこの装置が外れるため、額面の単純比較では下がって見えやすい。ここを理解せずに「現年収維持」を条件にすると、選択肢が急激に狭まります。

身近な比喩で言うと、都心の一等地に出店しているレストランの売上には、料理の腕前だけでなく立地の家賃が織り込まれています。郊外に移転して売上が下がっても、腕が落ちたわけではない。装置と実力を切り分けて自分の値段を見る。年収の話は、ここから始まります。

1. 行き先カテゴリ別・レンジの目安

PM Quest独自ガイドの目安値です(個人の経験・企業により大きく変動します。統計値ではありません)。

行き先年収レンジ目安備考
大手事業会社 DX推進・IT企画700〜1,200万レンジ上限は高いが枠が少ない
SaaS・Web系 PM/PdM600〜1,100万ストックオプションが付く場合あり
スタートアップ 事業開発・経営企画600〜1,000万+SO額面は下がるが裁量と将来性で選ぶ椅子
新興・中規模ITコンサル600〜1,500万ファーム間転職。年収は維持〜増が狙える
大規模変革PM・PMO(事業会社側)700〜1,300万ERP・基幹刷新の発注側。経験が直接換金される

1-1. レンジ表の読み方を間違えないでください

この手の表でよくある誤読が、「上限の数字を自分の期待値にする」ことです。レンジの上側は、その業態で最も評価される経験の持ち主——多くの場合、実行まで背負った経験と、業界ドメインの深さの両方を持つ人——に提示される数字です。自分がレンジのどこに位置するかは、上流比率・役割レイヤー・実行経験の3変数でほぼ決まると考えてください。逆に言えば、この3変数の語り方を磨くだけで、同じ経歴でも提示位置が変わります。

1-2. 希望年収と求人母数はトレードオフ

もうひとつ、構造の話をします。求人市場を年収の条件で見ると、希望額を上げるほど対象求人の母数は急激に減ります。当社の独自調査ベースの目安ですが、PM関連求人のうち年収1,200万円クラスまで許容する求人は、45歳の候補者に対しては全体の3割前後、49歳では45%前後が「母集団として成立するかどうか」の境目になってきます。数字そのものより、お伝えしたいのは構造です。希望年収は「もらいたい額」ではなく「応募できる市場の広さを決めるダイヤル」だということ。ダイヤルを100万円回すだけで、見える求人の景色は大きく変わります。

2. 下げ幅を抑える人の3条件

3つ目について、実際にあった対照的な例をひとつ(詳細はぼかします)。同じファーム出身の2人が、ほぼ同時期に転職されました。一人は現年収維持にこだわり、唯一提示額が届いた企業へ。もう一人は初年度150万円下げて、伸びているSaaSのPMポジションへ。3年後、前者は入社した企業の事業縮小で再び転職活動をされ、後者はプロダクト責任者になって、結果として前職の年収を超えていました。もちろん逆の結果もあり得ます。運の要素も大きい。ただ、初年度の額面は3年設計の変数のひとつでしかない、ということの例としては、僕の中で強く残っています。

2-1. 「現年収」の中身を分解してから比較する

額面比較の精度を上げる、地味ですが効く作業がもうひとつあります。現年収の内訳分解です。基本給・賞与(業績連動の振れ幅込み)・残業相当分・福利厚生の現金換算。ファームの「年収1,300万円」の中には、実は業績賞与の上振れ分や高稼働の対価が数百万円単位で含まれていることが珍しくありません。分解してみると、「安定的に手にしてきた部分」は1,000万円前後だった、というケースはよくあります。比較すべきは総額同士ではなく、この安定部分と移籍先の基本給です。ここを混ぜたまま「300万下がる」と嘆くのは、自分の交渉と判断の両方を不利にします。

2-2. 面接で「希望年収は?」と聞かれたときの答え方

ついでに実務の小技を。選考中盤で希望年収を聞かれたとき、「現年収維持を希望します」と答えるのは、実は損な手です。理由は2つ。ファームの給与構造を先方も知っているので「相場観のない人」に見えるリスクがあること、そして早い段階で数字を固定すると、評価が上がったときの上振れ余地を自分で塞ぐことです。僕がお勧めしているのは、「現年収は◯◯万円ですが、内訳として高稼働の対価が含まれている認識です。御社での役割と評価に応じてご相談させてください」という構造の答え方。相場を理解していることを示しつつ、数字の確定を評価が固まる終盤まで遅らせる。それだけで提示のされ方が変わることがあります。

3. ストックオプションという変数の扱い方

スタートアップ系の提示に付いてくるSO(ストックオプション)についても触れておきます。結論から言うと、SOは年収の代替ではなく、宝くじ付きの椅子だと考えるのが健全です。上場・バイアウトに至る確率、行使条件、希薄化。期待値の計算はプロでも難しく、「SO込みなら現年収と同じ」という足し算は、意思決定の質を下げます。お勧めしているのは、SOをゼロと置いても納得できる額面かどうかで判断し、SOは当たれば嬉しいボーナスとして横に置くこと。SOの魅力で額面の交渉を諦めるのは、順番が逆です。

4. 交渉は「入口の一回」がほぼすべて

言いにくい話ですが、日本の事業会社では、入社後の昇給ピッチは緩やかです。入口の提示額が、その後数年の基準線になる。だから交渉するなら入口です。とはいえ、強気の駆け引きを勧めているのではありません。効くのは駆け引きではなく、材料です。①レンジ表で自分の座標を把握しておく、②実行経験を数字(規模・期間・結果)で示す、③他社の選考状況をありのまま共有する。この3点がそろっていれば、交渉というより「値付けの根拠の共有」になり、心証を損ねずに提示が上がるケースは珍しくありません。

4-1. 「下がった年収が戻る人」の共通点

入口で下がった年収がその後戻るかどうかも、よく聞かれる論点です。僕の観察では、戻る人には共通点があります。転職の時点で「何の経験を積めば、この会社(あるいは次の市場)で値段が上がるか」を具体的に言語化していたことです。たとえば「プロダクトの継続責任を2年持てば、PdM市場で戦える」「発注側の大型刷新を一周回せば、変革PMとして換金できる」。下がった額を「投資」と呼ぶのは簡単ですが、投資には回収計画が要ります。回収計画のない値下げは、ただの値下げです。ここの設計を面談で一緒に詰めるのが、僕らエージェントの本来の仕事だとも思っています。

5. 誤解がないように申し上げると

「年収を下げてでも事業会社へ」と煽りたいわけではありません。ファームに残る、より上流のファームへ移る、新興ITコンサルで年収を上げる、という選択が最適な方も当然います。特にファーム間の転職は、いま生成AI案件の拡大でポテンシャル採用が活発になっていて、年収維持〜増額の現実的なルートです。僕の体感値で言うと、後悔が残る転職は「下がった」ことではなく「下がる理由と戻る道筋を理解しないまま決めた」ことから生まれています。

(結論) 額面の一点比較をやめる

年収は下がるか上がるかではなく、「何と引き換えに、どの時間軸で設計するか」。装置(ファームのブランドと稼働)と実力を切り分け、希望年収のダイヤルが市場の広さを決めることを理解し、3年後の職域と報酬のセットで考える。それがファーム出身の転職で期待値のズレを防ぐ、ほぼ唯一の方法だと考えています。

皆さんいかがでしたでしょうか。自分の座標がレンジのどこにあるのか、まずは現在地から。下の3分診断か、PM Questのキャリア面談(無料)をご利用ください。では今日もがんばりましょう。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

PM・PM隣接職に特化した人材紹介「PM Quest」を運営。IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等はPM Quest独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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