監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト代表取締役CEO / 業界20年)
「PM歴も申し分ないのに、Web事業会社の面接で手応えがない」——それはあなたの経験不足ではなく、評価軸のすれ違いです。この記事は、SIerで培った力をWebの面接で正しく伝え直すための地図を提供します。
まず結論からお伝えします。SIerからWeb事業会社への転職で通過しにくくなる原因は、多くの場合スキル不足ではありません。面接官が評価している軸が、あなたがアピールしている軸とすれ違っている——この構造の問題です。
SIerの世界では、PMの価値は「決められたスコープを、決められた品質・コスト・納期(QCD)で完遂する再現性」で測られます。要件が固まり、契約が結ばれ、そこから逆算して工程を管理する。この管理の精度こそが、SIerにおけるPMの腕の見せどころです。
ところがWeb事業会社の面接官は、まったく別の問いを持っています。「この人は、正解が決まっていない状況で、事業を前に進められるか」です。Webの現場では要件そのものが仮説であり、リリース後のユーザー反応を見て次を決める。スコープは動くのが前提です。
ここで起きるのが典型的なすれ違いです。SIer出身の方が誇りを持って語る「3億円規模のプロジェクトを納期通りに完遂した」という実績が、Webの面接官には「決められたことを正確にこなす人」としか響かない。これは能力の否定ではなく、評価言語の違いなのです。だからこそ、経験の翻訳が必要になります。
PM Questの中核にある思想は、同じ『PM経験10年』でも業態が違えば評価はまったく別物になる、というものです。ここで主要4業態の評価軸を対比します。自分の現在地と行き先を、この地図の上で確認してください。
この対比で見えてくるのは、SIerとWebがほぼ対極にあるという事実です。SIerは「変動を抑える」ことに価値があり、Webは「変動の中で賭ける」ことに価値がある。予防型の管理力を磨いてきた方が、そのまま同じ武器でWebに挑むと、まさにその武器がミスマッチのシグナルになってしまいます。
ただし——ここが重要ですが——SIer→Webは「斜めのキャリア」、つまり職域を広げながら業態を移る転換であり、決して不利な移動ではありません。SIerで培った『複数ステークホルダーを束ねる調整力』『破綻しない設計思考』は、Webのスピード偏重の現場でむしろ希少価値になります。問題は使う言葉なのです。
では具体的に、何をどう語り直せばよいのか。翻訳の勘所は3つです。
1. 『納期を守った』→『何のために納期を守り、結果どうなったか』
Webの面接官はQCDの達成そのものには興味が薄い。しかし『このリリースを逃すと商戦期に間に合わず、機会損失が大きいと判断してスコープを削って納期を優先した』なら、これは立派な事業判断です。守った事実ではなく、守るために何を捨てる意思決定をしたかを語ってください。
2. 『要件通りに作った』→『要件の裏にある狙いを問い直した』
SIerでも優秀なPMは、顧客の要求の背後にある事業目的を掴んでいます。『顧客が求めた機能Aは、実は業務時間の削減が目的だったので、別の実装Bを提案した』——こうした経験は、Webが求めるユーザー理解・課題定義力そのものです。
3. 『トラブルを管理した』→『不確実性の中で意思決定した』
炎上案件をリカバリした経験は、Webでは『情報が不足する中でも決断し、前に進めた力』として語れます。管理の物語ではなく、意思決定の物語に組み替えるのです。
翻訳の共通原理はシンプルです。『管理できた』ではなく『事業を前に進めた』を主語にする。SIerでは黒子であることが美徳でしたが、Webではオーナーシップ、つまり『自分がこの数字を動かした』という当事者性が評価軸の中心にあります。
抽象論だけでは面接は変わりません。以下を面接前日に一つずつ確認してください。
このリストの狙いは、経験を盛ることではありません。すでにあなたが持っている経験を、正しい言語に翻訳することです。中身は変えず、見せ方を変える。それだけで通過率は変わります。
ここまで翻訳の必要性を語ってきましたが、誤解してほしくないのは、SIerのキャリアがWebで劣後するわけではないという点です。むしろ、成長期を過ぎて『事業の土台を固める』フェーズに入ったWeb企業ほど、SIer出身PMを求めています。
理由は明確です。急拡大したWeb事業会社の多くは、スピード優先で走ってきた反動として、開発の負債・破綻寸前の設計・属人化した運用を抱えています。ここで効くのが、SIerで鍛えられた『破綻させない設計思考』と『複数部門を巻き込む調整力』です。
PM Questの職域論でいえば、これは『企画から運用まで一気通貫で担うフルサイクルPM』への布石にもなります。SIerで工程の全体像を俯瞰してきた経験は、実は一気通貫の素地そのものなのです。あなたの経験は、正しい面接官の前で、正しい言葉で語られれば、確実に価値になります。
Q1. Web事業の実務経験がゼロでも、Web事業会社のPMに転職できますか?
可能です。ただし『経験がある人と同じ土俵で勝つ』のではなく、SIerで培った差別化要素で選ばれる戦略が必要です。前述の設計思考・調整力に加え、志望先の事業への理解と、そこで自分が何を動かせるかの仮説を語れれば、未経験は決定的な障壁になりません。むしろ即戦力の型より、伸びしろと構造力を評価する企業も多くあります。
Q2. 年収は下がりますか?
一概には言えません。SIerの大規模PMは元々の年収水準が高い場合があり、Web移行の初期に横ばい〜微減となるケースはあります。ただし事業成長にコミットするポジションでは、成果と連動して伸びる余地が大きいのも事実です。目先の提示額より、その企業のフェーズと自分の伸びしろで判断することをお勧めします。断定的な年収保証をする情報には注意してください。
Q3. 40代でSIerからWebへの転職は遅すぎますか?
遅くありません。実際、SIer出身・40代・PM歴15年前後の方が、事業の土台固めを担うポジションで評価される例は珍しくありません。年齢そのものより、『管理者としてしか動けない人』と見られるか『事業を前に進める当事者』と見られるかの分かれ目です。この記事の翻訳作業は、まさにその印象を変えるためのものです。