監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト代表取締役CEO / 業界20年)
RACIマトリクスは、プロジェクトの作業項目を縦軸、関係者を横軸に並べ、各セルにR(実行担当)・A(説明責任者)・C(相談先)・I(報告先)のいずれかを割り当てる表です。誰が手を動かし、誰が最終責任を負うかを一枚で見渡すために使われます。
RACIマトリクスの目的は、作業と人の対応関係を曖昧なままにしないことにあります。プロジェクトが動き出すと、「要件定義書は誰が書くのか」「受入テストの合否は誰が判断するのか」といった役割の境界が、口頭の了解だけで進みがちです。後から認識のずれが表面化すると、手戻りや責任の押し付け合いにつながります。RACIは、その境界を文書として固定する道具だと考えると分かりやすいです。
4つの記号はそれぞれ役割の種類を表します。
PMにとっての実利は、キックオフやステコミの場で「この作業のAは誰ですか」と問いを立てられることです。空欄や複数のAが見つかれば、合意が取れていない箇所が早期に浮かび上がります。
作成はおおむね次の順で進めます。まず作業項目を洗い出し、次に関係者を並べ、最後にセルを埋めます。
埋め終わったら、関係者全員で読み合わせます。この合意の場があるかどうかで、表が機能するかが大きく変わります。表そのものより、作る過程での会話に価値があると捉えるとよいでしょう。粒度に迷うときは、要件定義・設計・テストといった工程の節目にある成果物を単位に置くと、担当を決めやすくなります。
RACIマトリクスは形式が単純なぶん、埋めた後に機能しなくなる失敗がいくつかあります。
いずれも、表を一度完成品として扱ってしまうと起こりがちです。合意と更新を続ける前提で持つと、こうしたずれは抑えやすくなります。
RACIマトリクスは似た道具と並べて理解すると位置づけが掴めます。軸は「何を整理する表か」です。
呼び方は「RACIチャート」「RACI図」「責任分担マトリクス」などとほぼ同じ意味で使われます。表の形や線の引き方で呼び分けられることもありますが、中身は作業と役割の対応表という点で共通しています。
RACIマトリクスを使いこなせることは、プロジェクトマネージャーとして役割の境界を設計できる証拠になります。作業を適切な粒度に分け、説明責任者を一人に定め、関係者と合意を取る一連の動きは、体制づくりの基礎力そのものです。面接や職務経歴書では、「RACIを作った」という事実より、どの作業で役割が曖昧だったか、どう合意を取り直して手戻りを防いだかを語れると、再現性のある進行力として伝わりやすくなります。特に複数のベンダーや部門が関わる案件、DX推進のように関係者が多い場では、責任分担を見える化できるPMの価値が出やすい領域だと考えられます。ステークホルダー管理やWBSと組み合わせて使えると、より説得力が増すでしょう。
RACIのAとRはどう使い分けますか
Aは作業の完了と品質に最終責任を負う説明責任者で、原則一作業に一人です。Rは実際に手を動かして成果物を作る実行担当で、複数いてもかまいません。同じ人がAとRを兼ねることもありますが、役割としては分けて書くと、判断する人と作業する人の境界が明確になります。
RACIマトリクスはいつ作ればよいですか
体制と作業範囲がある程度見えた時点、たとえばプロジェクト計画やキックオフの準備段階で作ると機能しやすいです。ただし一度で確定させるものではなく、体制変更や範囲の見直しがあれば更新します。変更管理の対象として節目ごとに見直す前提で持つのが現実的です。
RACIチャートやRACI図とは別物ですか
ほぼ同じものを指します。RACIマトリクス、RACIチャート、RACI図、責任分担マトリクスはいずれもR・A・C・Iで作業と役割の対応を示す表の呼び名です。表の体裁や線の引き方で呼び分けられることはありますが、作業ごとに担当を割り当てるという中身は共通しています。