監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト代表取締役CEO / 業界20年)
クエスト型PMとは、プロジェクトマネージャーが担う大きな目標を、達成条件のはっきりした小さな単位(クエスト)に分け、その積み重ねでゴールへ近づける進め方を指す言葉です。ゲームの「クエスト」に見立てて、完了・未完了を明確にしながら進捗を可視化する意図で使われることが多く、厳密な業界標準というより、チーム運営上の呼び方として広まっている表現だと考えられます。
クエスト型PMという言い方が使われる背景には、長期のプロジェクトほど「今どこまで進んだか」が見えにくくなる、という悩みがあります。数か月単位のスケジュールをそのまま眺めても、メンバーは自分の一日の作業がゴールにどう効いているのか実感しにくくなりがちです。そこで、達成条件が明確な小さな単位に区切り、一つずつ完了させていく形を取ります。
この進め方の狙いは、大きく二つに整理できます。
ただし、これはあくまで進め方の工夫であり、要件定義や品質管理といった土台の工程を省いてよいという意味ではありません。土台を固めたうえで、その中の作業を扱いやすい大きさに割るための言い換えだと捉えると、位置づけを見誤りにくくなります。
実際の流れは、通常のプロジェクト運営と大きく変わりません。まずPMが、プロジェクトの最終ゴールとマイルストーンを定めます。次に、各マイルストーンに至るまでの作業を、達成条件を書ける単位まで分解します。ここでの単位は「設計レビューを完了させる」「結合テストの第一弾を通す」といった、成果物や工程名で言い切れる粒度が扱いやすいとされています。
分解の順序としては、次のような組み立てが取りやすいです。
この形は、スクラムのスプリントやバックログの考え方と重なる部分が多く、既存の進捗管理の道具立てをそのまま活かせます。新しい管理ツールを導入するより、ガントチャートや課題管理表の中で「完了条件を必ず書く」という運用に寄せるほうが、負担少なく始められる場合が多いです。
単位に分けること自体は難しくありませんが、分け方を誤ると管理が煩雑になり、かえって全体像を見失うことがあります。よく見られるつまずきを、原因ごとに挙げます。
これらは、単位化そのものの弱点というより、分解の設計を後回しにしたときに起きやすい問題です。分ける前に「何を達成したことにするか」を丁寧に決める工程を挟むと、多くは避けられます。
クエスト型PMという呼び方は、いくつかの既存概念と近い位置にあります。混同を避けるには、「何を単位とし、何を管理の主眼に置くか」という軸で見比べると整理しやすくなります。
いずれも別物というより、視点の置き方の違いです。既に運用しているマイルストーンや進捗管理と衝突させず、その中の言い回しとして取り入れると、混乱を招きにくくなります。
クエスト型の考え方は、プロジェクト運営だけでなく、プロジェクトマネージャー自身のキャリア形成にも応用しやすい発想です。中長期の目標をそのまま掲げると距離が遠く感じられますが、達成条件を書ける単位に割り、一つずつ通していく形にすると、次に何を積むべきかが具体的になります。たとえば「要件定義を一人で回す」「ステークホルダー調整の主担当を務める」といった、成果物や役割で言い切れる経験を単位として置く進め方です。転職を検討する場面でも、こうした単位で経験を棚卸ししておくと、自分がどの工程を担えるかを相手に伝えやすくなります。まずは今の立ち位置を確かめ、無理のない次の一歩から積み上げていくとよいでしょう。
クエスト型PMは正式な用語ですか。
PMBOKのような標準に載る正式用語というより、プロジェクトの作業を達成条件の明確な小さな単位に分けて進める考え方を、分かりやすく言い換えた表現として使われることが多いようです。厳密な定義があるわけではないため、チーム内で意味をそろえてから使うほうが誤解を招きにくくなります。
アジャイルやスクラムと同じものですか。
同じではありません。スクラムは反復開発の枠組みを持つ手法で、バックログやスプリントといった具体的な仕組みを伴います。クエスト型はそうした枠組みに限らず、ウォーターフォールの工程内でも使える緩い言い換えです。重なる部分はありますが、置き換えられる関係ではないと捉えたほうが安全です。
導入するときの最初の一歩は何ですか。
新しいツールを入れる前に、既存の進捗管理表の各項目に「完了条件」を書き足すところから始めると負担が小さいです。成果物名や合格基準で言い切れる条件にし、担当者以外が完了を確認する運用を添えると、達成が見えやすくなります。分け方が細かすぎないかを、途中で見直すことも大切です。