監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト代表取締役CEO / 業界20年)
DX推進とは、デジタル技術を使って業務プロセスや事業のあり方を見直し、組織の稼ぎ方や働き方を変えていく取り組みを指します。既存システムの入れ替えにとどまらず、業務の手順そのものと、それを支える組織・評価の仕組みまで含めて設計し直す活動です。単発の開発ではなく、複数の施策を継続して回す中長期の営みとして扱われることが多いといえます。
DX推進の目的は、ツール導入そのものではなく、業務の成果を変えることにあります。同じ作業をデジタルで速くするだけの段階(デジタル化・デジタイゼーション)と、業務の流れや役割分担、顧客との接点まで組み替える段階(変革・トランスフォーメーション)は分けて考えると整理しやすくなります。後者まで届いて初めてDX推進と呼ばれる、という捉え方が一般的です。
具体的には、経営層が変革の方向性を定め、事業部門が現場の業務課題を出し、情報システム部門やベンダーが実現手段を持ち寄る、という構図で進みます。プロジェクトマネージャーはこの間に立ち、目的(何のために変えるのか)と手段(どのシステムをどう入れるか)が食い違わないよう、両者をつなぐ役割を担うことが多いです。
つまずきやすいのは、目的が「DXをやること」自体にすり替わる場合です。目的を売上・工数・リードタイムといった業務の言葉で言い換えられないまま進むと、導入したツールが使われずに終わりやすくなります。目的を業務の指標に翻訳しておくことが、後の判断のよりどころになります。
進め方は、上流から下流へと段階を踏むのが基本形です。まず経営や事業部門の課題を洗い出す課題設定を行い、次に現状の業務フローを可視化して、どこを変えるかを決めます。ここで作られるのが業務フロー図や課題一覧といった成果物です。対象が定まったら、システム化企画・要件定義へと進み、実装・移行・定着へつなげていきます。
プロジェクトマネージャーの主な仕事は、この流れ全体の計画を引き、関係者の役割と期限を明確にすることです。事業部門・情報システム部門・ベンダーそれぞれの担当範囲を決め、マイルストーンを置き、意思決定の場を設けます。関係者が多くなりやすいため、誰が何を決める権限を持つのかを早い段階で合意しておくと、後の停滞を防ぎやすくなります。
DX推進が止まる典型は、現場の巻き込み不足です。上流で決めた仕組みが、実際に手を動かす担当者の作業実態と合っておらず、旧来のやり方と二重運用になってしまう形がよく見られます。これを避けるには、要件定義の段階で現場の担当者に業務の実態を確認し、作った後も定着を工程として計画に組み込んでおくことが役立ちます。
もう一つは、既存システムとの関係を軽視することです。長く使われてきた仕組みは業務に深く組み込まれており、そこに新しいツールを載せると、データの受け渡しや例外処理でつまずきます。移行の範囲と手順、旧システムをいつ止めるかを事前に決めておかないと、切り替えの直前で作業が膨らみます。
プロジェクトマネージャーとしては、変更が業務や他システムに与える影響を早めに洗い出し、関係者と共有しておくことが重要です。加えて、DX推進は一度で完結しないため、最初の施策で得た学びを次に回す前提で計画を立てると、無理のない進行につながります。範囲を欲張りすぎず、区切って進める姿勢も現実的です。
DX推進は、いくつかの近い言葉と混同されがちです。軸を「変える対象の広さ」に置くと違いが見えやすくなります。単に紙をデータに置き換えるデジタル化は、作業の効率化が中心で、業務の流れ自体は変わりません。これに対しDX推進は、業務プロセスや役割分担、場合によっては事業モデルまで見直す点が異なります。
業務改革(BPR)とも重なりますが、BPRは業務プロセスの抜本的な見直しを指す言葉で、必ずしもデジタルを前提としません。DX推進は、その見直しをデジタル技術で実現する場面を多く含む、と捉えると整理できます。近年は、AIを使って業務プロセスを組み替える取り組みも、この文脈で語られることが増えています。
システム導入プロジェクトとの違いも押さえておきたい点です。システム導入は特定の仕組みを入れることが目標になりますが、DX推進はシステムを手段の一つとして扱い、業務の成果が変わったかを問います。プロジェクトマネージャーが関わる場合、成果物としてのシステムだけでなく、それが業務にどう根づいたかまで視野に入れることが求められます。
DX推進は、プロジェクトマネージャーが業務理解と技術理解の両方を求められる領域です。システムを作る力だけでなく、業務の課題を設定し、関係者を巻き込みながら定着まで見届けた経験は、キャリアの幅を広げる材料になります。特に、事業部門の言葉と情報システム部門の言葉を翻訳できる力は、上流の企画や業務変革に近い役割へ移るときに評価されやすい傾向があります。
キャリアを考える際は、自分がどの工程に強みを持つのかを整理しておくと方向を選びやすくなります。課題設定や要件定義といった上流に軸足を置くのか、導入と定着の現場運営に強みを持つのかで、次に目指せる職域は変わってきます。担当した範囲を工程と成果物の言葉で振り返っておくことが、次の一歩の手がかりになります。
DX推進とデジタル化(IT化)はどう違いますか。
デジタル化は、紙や手作業をデータに置き換えて効率化することが中心で、業務の流れ自体は基本的に変えません。DX推進は、業務プロセスや役割分担、場合によっては事業のあり方まで見直す点が異なります。変える対象の広さで区別すると整理しやすいといえます。
DX推進でプロジェクトマネージャーは何を担いますか。
経営・事業部門・情報システム部門・ベンダーの間に立ち、変革の目的とシステムという手段が食い違わないよう調整する役割を担うことが多いです。計画の立案、役割と期限の明確化、意思決定の場づくり、そして導入後の定着まで見届けることが求められます。
DX推進はなぜ途中で止まりやすいのですか。
現場の作業実態と合わない仕組みを作ってしまい、旧来のやり方と二重運用になる形が典型です。また既存システムとの連携や移行手順を軽視すると、切り替え直前で作業が膨らみます。要件定義での現場確認と、定着を工程に組み込むことが対策になります。