経歴は縦・横・斜めで語れ — 45歳の職務経歴書を再編集する
- 山根一城氏は45歳PMの経歴を縦(マネジメント規模・専門性)・横(職域の幅)・斜め(異業界の接続)の3軸で語り直すフレームを提唱している。
- 縦は数字で語らないと換金されず、横は開発とインフラ両方経験者が体感2%程度、実装まで手を動かせるPMは0.2%程度と希少だと述べている。
- 職務経歴書は冒頭3行のサマリーに再編集し、応募職域に合わせて主役の軸を1本決め、残り2軸は脇役として添えるのがよいとしている。

「経歴が長すぎて、何から話せばいいか分からないんです」
皆さま、ご自身の20年の経歴を、3行で説明できますか?
45歳のPMの職務経歴書は、たいてい「長い」です。プロジェクトが年表のように並び、読み手はどこを見ればいいか分からない。面接でも同じことが起こります。時系列で丁寧に語るほど、面接官の頭の中では情報が散乱し、終わってみれば「結局この人の強みは何だったのか」が残らない。20年分の事実を全部並べることと、20年の価値が伝わることは、全く別の話です。
そこで僕が使っているのが「縦・横・斜め」というフレームです。これは僕が社内で呼んでいる用語なんですけど、経歴を3つの軸に射影して語り直す、というものです。今回はこのフレームを、面接での使い方まで含めて一段深く書きます。
0. なぜ「軸」で語る必要があるのか
先に理屈を言っておくと、人間の頭は、構造の無い情報を保持できません。面接官は1日に何人もの経歴を聞きます。年表を順に聞かされた面接官の頭の中は、引き出しの無いまま書類が積み上がった机のような状態になる。逆に、冒頭で「私の経歴は3つの軸で説明できます」と枠組みを先に宣言すると、面接官の頭の中に受け皿——3つの引き出し——ができて、その後の話が全部整理されて格納されます。フレームの中身と同じくらい、フレームを先に渡すという行為自体に価値がある。ここが今回の隠れた主役です。
もう一つ、このフレームには年齢特有の効用があります。45歳の面接では「で、結局あなたは何の人ですか」という無言の問いが常に流れています。経歴が長いほど、この問いは重くなる。縦・横・斜めは、20年の複雑さを3語に圧縮して、この問いに正面から答えるための道具です。複雑なものを複雑なまま渡さない。それ自体がPMの仕事ぶりの証明にもなります。
1. 縦 — 高さ×深さ
縦はマネジメントの高さと専門性の深さです。何名を率いたか、予算はいくらか、意思決定のレイヤーはどこまで上がったか(現場リーダー→PM→PMO→部門長)。そして専門領域をどこまで深掘りしたか。
45歳の武器は、まずこの縦です。若手には物理的に積めない軸だからです。たとえば「予算3億円・50人月・約2年」の案件を要件定義から通しで見た経験は、30歳では持ちようがありません。しかも僕の周囲の実感で言うと、10名以上のマネジメント経験者は社内を見渡しても数名、2億円超のプロジェクト経験者も同じくらい、という会社が珍しくない。本物の縦は、思っているよりずっと希少です。ただし縦は数字で語らなければ換金されません。「大規模案件を推進」と書いた瞬間、3億円も300万円も同じ文字列になります。
2. 横 — 職域の幅
横はカバーした職域の幅です。PMの仕事は上流から順に、事業戦略/IT戦略/課題設定/要求定義/要件定義/基本設計/開発/運用と並びます。あなたはこのうちどこからどこまでを担ったのか。要件定義〜基本設計だけなら「一般的なPM」。課題設定や企画から入った経験があるなら、それはより希少な上流域のPMです。
横の希少さは、数字にすると分かりやすい。僕の体感値で言うと、ITコンサルとPMの両方を本当に経験している方は市場の15%未満。開発とインフラの両方を見てきた方は2%程度。さらに自分で実装まで手を動かせるPMとなると0.2%程度、つまり500人に1人の水準だと感じています。横の幅は自覚していない方が多く、棚卸しすると「実は企画からやっていた」「実はインフラ側も見ていた」ことがよく見つかります。埋もれた横を掘り起こすだけで、希少度の桁が変わることがあるのです。
3. 斜め — 異業界の接続
斜めは業界をまたぐ経験の接続です。製造業で20年、金融で15年——この業界知識は、単体では「古い経験」に見られがちですが、斜めに持ち込むと化けます。典型がバーティカルSaaS(特定業界向けSaaS)で、ここはSIer経験者が評価されやすい狙い目の職域です。「その業界の言葉が話せるPM」は、若さでは代替できません。
注意点はひとつ。異業界の経験を事実として並べるだけでは「何屋さんか分からない」経歴に見えてしまうことです。斜めは「接続の言語化」までがセットです。「製造業の生産管理を知っているから、製造業向けSaaSの要件の勘所が分かる」と、橋を自分で架けて見せる。事実と事実の間の橋こそが、斜めの本体だと考えています。3つの掛け算で100人に1人の希少価値になる、というのはこういう話です。
4. 3軸で「3行サマリー」を作る
再編集の成果物はシンプルで、職務経歴書の冒頭3行です。
- 縦:「最大◯名・予算◯億円のプロジェクトを要件定義から完遂」
- 横:「課題設定〜基本設計の上流域を一貫して担当」
- 斜め:「製造業ドメイン◯年。業務知識を要するプロジェクトに強み」
読み手はこの3行で「どの職域の、どのレンジの人か」を判断できます。年表はその裏付けとして後ろに置けばいい。
4-1. 面接では「宣言」から入る
面接での使い方も書いておきます。経歴説明を求められたら、いきなり1社目から話し始めず、最初にこう宣言します。「私の経歴は、縦=マネジメントの規模、横=担当した職域の幅、斜め=業界経験の掛け算、の3つで整理してお話しします」。この一文で面接官の頭に受け皿ができ、以降の理解度と記憶への残り方が大きく変わります。加えて、構造で語り始めた瞬間に「この人は自分を客観視できている」という別の評価も付いてくる。一石二鳥の型です。
5. 棚卸しの実務 — 3枚のメモから始める
フレームは分かった、で、何から手を付けるか。僕がおすすめしているのは、いきなり職務経歴書を開かず、白紙のメモを3枚用意することです。
- 縦のメモ:関わった全プロジェクトを「人数/予算/期間/自分の意思決定範囲」の4項目だけで書き出す。金額が曖昧なら「約」で構いません。書き終えたら、一番重い1〜2本に丸をつける。
- 横のメモ:上流から下流(課題設定→企画→要求定義→要件定義→基本設計→開発→運用)の帯を書き、自分が実際に手を動かした範囲を塗る。「PMとしての担当範囲」ではなく「実際にやったこと」で塗るのがコツです。肩書きより広く塗れる方がほとんどです。
- 斜めのメモ:経験した業界・業務ドメインを書き出し、それぞれに「この知識が活きる転職先はどこか」の矢印を引く。矢印が引けない業界知識は、まだ言語化が足りていないだけのことが多い。
3枚合わせて、かかる時間は2〜3時間です。この3枚が揃うと、冒頭3行のサマリーはほとんど自動的に書けます。逆にこの棚卸しを飛ばして書類を直そうとすると、年表の言い回しをいじるだけの「化粧直し」になりがちです。直すのは表現ではなく構造、というのが縦・横・斜めの本義です。
5-1. よくある失敗 — 3軸を「全部盛り」にする
一つだけ注意点を。3軸で棚卸しをすると、どの軸もそれなりに書けてしまうので、全部を同じ濃さでアピールしたくなります。これは失敗パターンです。読み手の記憶に残るのは、結局1つか2つ。応募する職域に合わせて、主役の軸を1本決める。発注者側PMなら縦を主役に、バーティカルSaaSなら斜めを主役に、上流ポジションなら横を主役に。残りの2軸は脇役として1行ずつ添える程度でちょうどいい。3本の柱を等分に立てるより、1本の柱を太く立てて2本で支える方が、建物としては強いのです。
6. ケーススタディ — ある48歳PMの再編集(構成例)
抽象論で終わらないよう、典型的な再編集のビフォーアフターを一つ、構成例としてお見せします(個人が特定されないよう、複数の面談で見てきたパターンを合成した例です)。
Before:48歳・SIer出身。職務経歴書は4ページ、14のプロジェクトが時系列で並ぶ。冒頭の要約は「システム開発におけるプロジェクトマネジメント業務に長年従事し、顧客折衝から進捗管理まで幅広く担当」。
After:冒頭3行をこう差し替えます。
- 縦:「最大22名・予算約1.8億円の基幹刷新を要件定義から完遂(社内で同規模経験者は自分を含め2名)」
- 横:「システム化企画〜基本設計の上流を10年。直近3年は課題設定段階から顧客と併走」
- 斜め:「物流業界12年。倉庫管理・配送管理の業務知識を要する案件に強み」
そしてプロジェクト一覧は14本から、この3行を裏付ける代表3本に絞り、残りは1行ずつの略歴に落とす。ページ数は4枚から2枚に半減します。情報を減らしたのに、伝わる価値は増える。これが「編集」の意味です。この構成なら、物流系バーティカルSaaSにも、発注者側の情シスにも、主役の軸を差し替えるだけで転用できます。
ちなみにこの型のもう一つの効能は、面接の冒頭2分が安定することです。3行サマリーはそのまま「経歴を簡単にご説明ください」への回答台本になる。書類と口頭で同じ構造・同じ数字が出てくる人は、それだけで信頼されます。
(結論)
45歳の経歴は、足すのではなく編集する。縦で重さを、横で希少さを、斜めで代替不可能性を語り、面接では枠組みを先に宣言して受け皿を作る。個人的には、この再編集だけで書類の通過率も面接の手応えも目に見えて変わると感じています。まずは自分の3軸がどこに立っているか、診断で確かめてみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

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よくある質問
Q. 経歴を縦横斜めで語るとは何か
20年の経歴を3つの軸に射影して語り直すフレームです。縦はマネジメントの高さと専門性の深さ、横はカバーした職域の幅、斜めは業界をまたぐ経験の接続を指します。年表を並べるのではなく、この3軸で職務経歴書の冒頭3行を作り、面接でも枠組みを先に宣言することで、読み手や面接官の頭に受け皿を作り、価値が整理されて伝わるようにする方法だと記事では説明しています。
Q. 何から手を付ければいいか
いきなり職務経歴書を開かず、白紙のメモを3枚用意します。縦のメモは全プロジェクトを人数・予算・期間・意思決定範囲の4項目で書き出し、横のメモは上流から下流の帯に実際に手を動かした範囲を塗り、斜めのメモは経験業界に活きる転職先の矢印を引きます。3枚合わせて2〜3時間で、冒頭3行のサマリーがほぼ自動的に書けるとされています。
Q. 3軸は全部アピールすべきか
全部を同じ濃さでアピールするのは失敗パターンだと記事は述べています。読み手の記憶に残るのは結局1つか2つのため、応募する職域に合わせて主役の軸を1本決めるのがよいとされます。発注者側PMなら縦、バーティカルSaaSなら斜め、上流ポジションなら横を主役にし、残り2軸は脇役として1行ずつ添える程度がちょうどよいと説明しています。
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