45歳からのPM転職、年収は本当に下がるのか — 職域別レンジで見る現実
- 45歳の年収は「年齢だから下がる」のではなく「職域を移るから下がる」構造で、職域別レンジは上限900万〜1,500万円と幅がある。
- 求人の年齢×年収分布は目安で、45歳×800万円以下が全体の10%程度、45歳×1,200万円以下が30%程度、49歳×1,200万円以下が45%前後となる。
- 年収維持ルートは発注者側に回る・元請けレイヤーを上げる・AIを掛け算するの3つで、45歳からでも打てる手だと筆者は整理する。

「45歳で転職したら、年収は下がりますよね?」
面談でほぼ必ず聞かれる質問です。誤解がないように申し上げると、下がるケースは確かにあります。ただ、まず結論から言うと、「45歳だから下がる」のではなく「職域を移るから下がる」のです。この違いが分かると、打ち手が変わります。今回はレンジ表と、年齢×年収の求人分布データ(いずれも目安値です)を使って、「下がる構造」と「下げない打ち手」を順番に見ていきます。
0. 「45歳の相場」という数字は存在しない
そもそもの話をすると、「45歳のPMの相場はいくらか」という問いには答えがありません。あるのは職域ごとの相場だけです。身近な比喩で言うと、「東京の家賃はいくらですか」と聞くようなもので、港区と八王子を平均しても誰の役にも立ちません。年収の議論は、必ず「どの職域の話か」を固定してから始める。これが今回の大前提です。
1. 職域別の年収レンジを並べてみる
年齢許容度が○以上(45歳前後〜50代可)の主な職域の年収レンジ目安を並べます。
| 職域 | 年収レンジ(目安) | 年齢許容 |
|---|---|---|
| 情報システム部門PM(発注者側) | 500〜1,000万円 | ◎ |
| 中堅プライム系SIer PM | 600〜1,200万円 | ○ |
| 1.5次請けSIer PM | 500〜1,000万円 | ◎ |
| 2次請け・SES PM | 500〜900万円 | ◎ |
| 新興・中規模ITコンサル(AI案件) | 500〜1,500万円 | ◎ |
| AIインテグレーター | 500〜1,200万円 | ◎ |
| 組み込み・制御系メーカーPM | 550〜900万円 | ◎ |
| ユーザー系SI PM | 500〜1,100万円 | ◎ |
ご覧のとおり、レンジの上限は900万円から1,500万円まで幅があります。「45歳の相場」という単一の数字は存在せず、あるのはどの職域に立つかの選択だけ、ということがまず見て取れると思います。
2. 求人の側から見る — 年齢×年収のマトリクス
もう一枚、企業側から見たデータを重ねます。当社がPM採用求人の対象条件を独自に整理したところ(公開時点の独自調査に基づく目安値です)、こういう分布になっています。
- 「45歳まで×年収800万円以下」を許容する求人 — 全体の10%程度
- 「45歳まで×1,000万円以下」— 20%台前半
- 「45歳まで×1,200万円以下」— 30%程度
- 「49歳まで×1,200万円以下」— 45%前後
この数字から言えることが2つあります。1つ目、45歳を対象に含む求人は決して少なくない(年齢だけなら35〜40%が対象に含めています)。2つ目、しかし年収条件を掛け合わせた瞬間に母集団が絞られる。つまり「下がるかどうか」は、あなたの価値の問題である前に、どの年収ラインで求人市場と向き合うかという設定の問題でもあるのです。僕はこの45%前後のあたりを「母集団として成立するかどうかのライン」と呼んでいます。
2-1. マトリクスを自分に当てはめる
この分布は、そのまま自己診断に使えます。やり方は簡単で、「自分の年齢×希望年収」がどのマスに落ちるかを見るだけです。たとえば47歳で希望1,000万円なら、体感的には2割前後の求人が対象——10社の求人があれば2社しか入り口が開いていない計算です。ここで大事なのは、これを悲観の材料にしないこと。母数が2割なら、その2割がどの職域に固まっているかを知ればいいのです。分布は薄く広くではなく、発注者側・1.5次請け・AI系コンサルといった特定の職域に偏在しています。つまり年収の問いは、結局また職域の問いに戻ってくる。表と分布を往復しながら、自分の主戦場を決めていくのが正攻法です。
3. 下がるのは、どういうときか
下がる典型は2つだと考えています。
3-1. レンジ上限の低い職域に降りるとき
たとえば大手SIerの管理職(〜1,400万円)からSES系のPM(〜900万円)に移れば、個人の力量と無関係に、構造的に下がります。これは市場の物理法則のようなもので、抗っても仕方がない。抗うべきは「その職域しか無いと思い込んでいないか」の方です。
3-2. 経験を換金できていないとき
同じ職域内でも、マネジメント実績を数字で語れない方はレンジの下側で提示されがちです。「何名×何ヶ月×予算いくら」が書類に無ければ、企業は低い方に見積もります。これは年齢の問題ではなく、語り方の問題です。処方箋はマネジメント経験の換金法に書きました。
ついでに言うと、この「下がる2典型」はどちらも応募前に自分で検知できます。①は職域マップのレンジ表を見れば分かり、②は自分の職務経歴書に数字が何個あるか数えれば分かる。つまり年収ダウンの大半は、オファー面談の場で起きるのではなく、応募先を選んだ瞬間と、書類を書いた瞬間に、すでに決まっているのです。だからこそ打ち手は前工程にあります。
4. 維持・上昇の現実的なルート
個人的には、45歳からの年収維持ルートは3つに整理できると考えています。
- 発注者側に回る:情シス・ユーザー系SIは50代でも歓迎され、ベンダー統制の経験がそのまま値段になります。受託の現場で「発注者に振り回された」経験こそ、発注者側では羅針盤になる。個人的に一番好きな逆転の構図です。
- 元請けレイヤーを上げる:2次請けから1.5次請け・中堅プライムへ。同じ実務でもレンジの天井が上がります。転職で職域を変えずに商流だけ上げる、最も低リスクな一手です。
- AIを掛け算する:新興ITコンサルのAI案件は上限1,500万円と、今回挙げた中では最も高い水準です。生成AIの活用実績があれば、45歳以上でもポテンシャル採用の対象になります。年齢×AIの掛け算は、僕の体感値ではまだ競合が薄い領域です。
4-1. 提示年収の交渉は「二段構え」で
実務的な補足を一つ。最初の応募ラウンドは母集団が成立する年収ラインで広く当たり、内定・評価という手札を持ってから条件を交渉する。逆に、最初から上限の希望を掲げて母数を絞ると、比較対象が無いまま交渉することになり、かえって弱い。順番の問題です。
5. 年収だけが通貨ではない — 45歳の「生涯設計」で見る
最後に、少し視野を広げた話をさせてください。45歳の転職を「初年度の提示年収」だけで採点するのは、僕は少しもったいないと思っています。見るべき通貨は他にもあります。
- 何歳まで働ける職域か:初年度900万円で55歳に壁がある職域と、750万円で60代まで現役が普通の職域。10年超の期間で積分すると、後者が上回るケースは珍しくありません。
- 市場価値が積み上がる仕事か:発注者側PMやAI案件の経験は、数年後の転職市場でさらに換金できます。逆に、レンジ内で高値でも「その会社でしか通用しない仕事」は、次の交渉力を痩せさせます。
- 学習機会という現物支給:生成AI案件に日常的に触れられる環境は、それ自体が年収数十万円分の自己投資に相当する、というのが僕の体感です。
誤解がないように申し上げると、「年収が下がっても夢を取れ」という精神論ではありません。むしろ逆で、通貨を複数にして計算した方が、経済合理的な判断になるという話です。初年度年収の50万円差は、5年後の市場価値の差で簡単にひっくり返ります。
5-1. 「一時的に下げて、2年で取り返す」設計
実際の面談では、こういう設計をお見せすることがあります。たとえば2次請けSES(現年収850万円)から新興ITコンサルのAI案件(初年度提示750万円)へ。初年度は100万円下がりますが、この職域は上限1,500万円とレンジの天井が高く、AI案件の実績が付けば2〜3年での昇給・再交渉の余地が大きい。一方、同レンジ内の横滑り(850万円→870万円)は初年度こそ勝ちですが、天井は900万円のままです。初年度の勝ち負けと、5年の勝ち負けは別のゲーム。どちらを選ぶかはご本人の人生設計次第ですが、少なくとも両方を数字で見てから決めるべきだと考えています。
6. 提示年収の「中身」を読む — 同じ800万円は同じではない
もう一つ、面談で毎回のようにお伝えしている実務があります。オファーが出たら、金額の前に内訳を読んでください。同じ「年収800万円」でも、中身はまるで違うことがあります。
- 固定残業の有無と時間数:月45時間分込みの800万円と、残業代別途の750万円では、時間単価は後者が上のことがあります。
- 賞与の変動幅:業績連動賞与が3割を占める800万円は、下振れ年には700万円です。基本給ベースで比べる癖をつけてください。
- 昇給の構造:等級テーブルの上限に近い提示か、まだ数段の伸びしろがある提示か。入口が同じでも、3年後は違います。面接の逆質問で「この等級の上は何がありますか」と聞くのは、45歳ならむしろ好印象です。
「下がった」「維持できた」という会話は、たいてい額面の一点比較で行われています。ですが額面は年収という書類の表紙にすぎません。表紙で判断せず、中身を3ページめくる。これだけで、数十万円単位の見落としが防げます。
(結論) 問いを変える
「下がりますか?」ではなく「どの職域なら下がらないか?」が正しい問いです。これは迷信ではなく、レンジ表とマトリクスを眺めれば見えてくる構造の話です。職域の選択で天井が決まり、換金の巧拙でレンジ内の位置が決まり、応募の順番で交渉力が決まる。3つとも、45歳からでも打てる手です。ご自身がどのルートに近いかは、45+市場価値診断で当たりを付けられます。数字はいずれも目安値であることをご認識のうえ、地図として使ってください。皆さんいかがでしたでしょうか。

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よくある質問
Q. 45歳のPM転職で年収は必ず下がる?
必ず下がるわけではありません。記事によると、下がるのは「年齢だから」ではなく「職域を移るから」で、レンジ上限の低い職域に降りるときと、マネジメント実績を数字で語れず経験を換金できていないときが典型です。逆に発注者側に回る、元請けレイヤーを上げる、AI案件を掛け算するといったルートなら維持・上昇も可能とされています。正しい問いは「下がりますか」ではなく「どの職域なら下がらないか」です。
Q. 45歳を対象にする求人はどのくらいある?
記事の独自調査に基づく目安値では、年齢だけなら35〜40%の求人が45歳を対象に含めています。ただし年収条件を掛け合わせると母集団は絞られ、45歳×800万円以下は全体の10%程度、45歳×1,000万円以下は20%台前半、45歳×1,200万円以下は30%程度、49歳×1,200万円以下は45%前後です。筆者はこの45%前後を母集団が成立するかどうかのラインと呼んでいます。
Q. 同じ提示年収800万円ならどれも同じ?
同じではありません。記事は金額の前に内訳を読むよう勧めています。固定残業の有無と時間数、業績連動賞与の変動幅、等級テーブル上の昇給余地によって中身はまるで違うためです。たとえば月45時間分込みの800万円と残業代別途の750万円では時間単価が逆転することもあります。額面という表紙で判断せず中身を確認するだけで、数十万円単位の見落としが防げるとしています。
by PM Quest